399 諜報員本部⑤/広間での激戦

 四方八方、いくつものやいばが、マナトに降り注ぐ。


 ……す、すげえ……!


 もはや美しさすら感じられる、諜報部隊の流れるような連携攻撃に、思わずラクトは見入られてしまっていた。


 ……い、いやそんなこと考えてる場合か、俺!これ、まずいんじゃねえのか!?


 あわやというギリギリのところで、マナトは回避し続けている。


 ……加勢するべきか。たぶん、流れを変えることはできるが……。


 だが、それをしてしまえば、せっかくマナトが考えた救出作戦が、失敗してしまう。


 「……問題なし!!」

 「!」


 回避し続けていたマナトが、大声で言った。


 と、同時に、膝を折って、大げさに姿勢を低くした。


 「なにが問題な……!」


 ――ガッ!


 「うわっ!」


 ダガーをくらわせようとした一人が、マナトの足に引っ掛かった。


 マナトは足を出しただけで、相手は自分の勢いに負けて、ゴロゴロと転がる。


 「もう!なにしてんのよ!」


 円の軌道からもう一人、双剣を構えてマナトに迫る。


 「……」


 ――パシッ!


 「えっ!?」


 双剣を避け、ほぼ同時に、その振り抜いて伸びてしまった相手の腕をマナトは掴み、グィィィと回転した。


 ――ブンッッッ!!


 「ッキャア!!」


 相手の勢いに、さらに遠心力を加えて、投げ飛ばす。


 「貴様……!」

 「やったな!!」


 正方形の線対称の2人が動いた。一人はダガー、もう一人は双剣。


 両側から、マナトへ、同時に斬りかかる。


 「……」


 マナトは垂直に、身体を回転させながら飛び上がった。


 ――カキッ!


 片方の、ダガーの斬撃を、マナトのダガーが受け止めた。


 「くらえ!!」


 もう片方、双剣の一閃が放たれる。


 「……えっ?」


 マナトがフワリと、宙を舞っていた。


 ――ゲシッ!!


 「うげっ!?」

 「ぐぁっ!?」


 ダガーとダガーの交差した部分を軸にして、マナトは多段跳躍し、まるで宙に浮くようにして双剣の一閃を回避すると、すかさず2人に回転蹴りを打ち込んでいた。


 ――スタッ。


 マナトが着地した。


 ……い、いったい、なにが起きてるんだ……?


 ラクトは唖然とした。目の前で起こっている現象に、空いた口が、塞がらない。


 ……水の能力を使っているように見えないが……?


 腰に水壷はつけているが、水流が出たようには見えなかった。


 ……いや、マナトのことだ。テッポウウオの時も、アメンボの時もそうだったし、またなにか、カラクリのあることをしているのかもしれない。


 「……フッ」


 マナトの口元が、緩んだ。


 「こんなものですかね?皆さん」

 「!」


 ――グッ……。


 マナトの言葉に、諜報部隊の、武器を握りしめる力が、強まる。


 「くそぅ……」


 マナトに一撃をくらわされた諜報部隊の面々が、起き上がる。


 「おい、大丈夫か!?」

 「大丈夫だ!」

 「問題ないわ!」

 「相手も、相当だが、こっちだって……柔な鍛え方は、していないんだよ!!」


 諜報部隊の一人ひとりから、覇気が、戦意が、伝ってくる。


 「……うん」


 マナトが、ひとり、うなずいた。


 「頃合いですね」


 ――タッ!


 マナトが動いた。


 いまの戦いで諜報部隊の陣形が乱れ、空いている箇所がある。


 そこを、マナトが駆け抜けた。


 「階段に……!!」


 そしてその先には、マナトとラクトが上がってきたところとは、別の、下層へつながる階段があった。


 マナトが階段を飛ぶようにして降りてゆく。


 「ぜったいに逃がすな!!」


 諜報部隊、全員が追った。

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