59 ミト。そして、ラクトとマナト

 「今日は、とりあえず、休もう」


 ミトが提案した。


 「みんな、疲れているだろう。それにあのジンの、料亭の亭主の振る舞いの感じなら、今すぐ襲ってくる様子もなさそうだし」

 「大丈夫かなぁ?……でも、3年も潜伏することも、あるんだもんな。あの亭主が何年ここで料理つくり続けてるのか、知らんけど」

 「ケントさんもいないし、今日はとりあえず解散で、また明日、相談しよう」

 「そうだな。マナトも、それでいいか?」


 ラクトがマナトを見た。


 「えっ?あ〜。うん。分かった」


     ※     ※     ※


 夜、遅く。


 ミトは一人、宿屋を出た。


 さすがに王国内といえど、歩いている人はほとんどおらず、マナのランプの灯火が、随所に見られるのみだった。


 料亭へ向かった。


 ――うろ覚えの、遠い日の記憶。


 あの日も……むしろ、今のこの王国のような、どうということのない、日常だったような気がする。


 そんな日常が、一瞬にして変わった。あっという間に、奴はそれまでの日常を、奪い去った。


 そして、この王国も、その事態に直面しようとしている。


 一人の王国の住人とすれ違った。


 お互い、軽く会釈する。


 ……おそらく、この王国の人に、自分達のような外部の者が、あの料亭の亭主はジンだ、と言っても、今はもう、信じてもらえないだろう。


 そのことを、ミトは知っていた。


 そうやって、かつて、ウシュムの街は襲われたのだから。


 ジンは、いつの間にか、人の心に取り入っている。


 おそらく、あの亭主はすでに、盗賊を襲っているし、いつでも、王国内で虐殺を始める可能性が十分にある。いや、もう水面下では、始まってしまっているかもしれないと、ミトは思った。


 ジンが潜伏している以上、次の日、次の瞬間、どうなるか分からない。


 そう考えると、ミトは動き出さざるをえなかった。


 しかし……、自分一人で、それを止められるかどうかは、分からない。


 キャラバンの村には必ず、交易品を持って帰らないといけない。


 ……大丈夫。一人いなくても、3人でも、キャラバンの村には帰れる……。


 「……!」


 今歩いている道の曲がり角を曲がるともう、料亭というところまで差し掛かったとき、暗がりの中から2人出てきて、ミトの前に立ちはだかった。


 「ほらね。やっぱり来たでしょ」

 「おいミト。この野郎」


 マナトとラクトだった。2人とも、ニヤニヤしながら、ミトを見ている。


 「マナト、ラクト……」

 「はいはい。こういう時は、一人じゃなくて、みんなでね」


 マナトが言うと、ラクトがミトの隣に来て、ガシッと肩を組んだ。


 「何で分かったの?」

 「まあ、ミトの話にいくつか疑問が湧いたってのもあるけど、一番は、まだ間に合うって言ったとき、ミト、震えが止まったのかな。何となくだけど、あぁ、ジンと戦う腹が決まったのかなぁって」

 「フフ……」


 ミトが苦笑した。


 「もう、マナトの前で、嘘つけないなぁ」

 「おい!俺の前でもつくんじゃねえよ!」


 ラクトがミトの肩を揺らした。

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