3 青年ミト①

 一週間後。


 自分の家を出たミトは、今日も、マナトという青年と出会った、丘の上の草原へと、向かっていた。


 両手には、ミトが自らつくった料理が持たれている。また、おいしいお水の入った、持ち運びのできる軽い壷が、肩にかけられ、揺れていた。


 「よお、ミト」


 歩いていると、数人の、よく知る近所の若者たちとすれ違った。


 「やあ、みんな」

 「……んっ?」


 若者の一人が立ち止まって、ミトの料理を見て言った。


 「おい、ミト。また、丘の上に、お供えしに行くのか?」

 「あはは、お供えじゃないよ」

 「いや、お供えだろ。だって、どこの誰かも分からない、怪しいヤツなんだろ?」

 「まあ、たしかに知らない顔だけどね。でも、少し話したよ」

 「大丈夫か?もしジンだったらって、村のヤツら、みんな心配してるんだぞ。キャラバン最終試験、近いんだろ?」

 「大丈夫。ありがとう」


 ミトは再び、歩き出した。


     ※     ※     ※


 「……ふぅ」


 ミトは一度、ため息をついた。


 ――サァ~。


 砂漠から、乾いた心地よい風が吹いている。


 ミトは密林の手前まで来ると、そこにある平たい石の上に、持ってきた料理と、水壷を置いた。


 「これで、よし……」


 ミトは引き返した。


 「……」


 と、見せかけて、少し離れた大きな岩の後ろに隠れて、観察を始めた。


 何度か声をかけてみたが、ダメだった。だが、ミトがその場を離れると、どうやらこっそり食べているようなのだ。


 ――ザザ……。


 料理を置いてから、数分と経たないうちに、密林の方から、草を踏みしだく音が聞こえてきた。


 「……あっ、きたきた……!」


 岩影から、ミトは興奮した面持ちで、密林から出てきた、マナトその人を見やった。


 初めて会ったとき、真っ白だった服は土と泥で汚れ、髪の毛にも顔にもつき、やつれて、いまはもう、完全な浮浪者そのものとなってしまっていた。


 「……」


 マナトは無言で、ギョロギョロと、周りを見回した。


 そして、


 ――ガツガツ……!


 必死で、マナトは平たい石の上に出された、ミトの手料理をかきこみ始めた。


 細い枝2本を密林から拾ってきていて、器用にお惣菜を挟みながら、ものすごい勢いで口に運んでいる。


 見た目はやつれているが、どこか、育ちの良さも、感じさせる。そう、ミトは思った。


 ――ゴクゴク……!


 また、お水も、勢いよく飲んでいた。


 「うん、うん。よかった、よかった」


 岩影でそれを見ていたミトは、ひとり満足そうにうなずいた。


 「……」


 と、マナトの手が止まった。


 「んっ?」


 ミトは再び、マナトを見やった。


 「う……うぅ……」


 ……泣いてる。


 ボロボロと、マナトの目から、涙がこぼれている。


 「……」


 ――ザッ。


 岩の後ろから、ミトは姿を現した。


 「!」


 マナトがハッとした表情をした。


 「大丈夫!大丈夫だよ……!安心して……」


 刺激しないように、ミトはゆっくりと、マナトへ近づいた。


 「……うぅ……」


 マナトの涙は、流れ続けている。


 「い、いつも……」


 そして、うつむきながら、薄汚れた上に、涙に濡れてくしゃくしゃになった顔で、言った。


 「あ、ありがとうございます……」


 マナトは、分かっていた。


 「大丈夫だよ。安心して、いいから……」


 そっと、ミトは、マナトを抱き締めた。

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