249 受注

 交易会議後、開け放たれた大衆酒場の大扉の前に、ラクトは立っていた。


 酒場の中では、会議後、そのまま飲み食いする者達で賑わっている。大扉の前で足を止める者はおらず、ラクトは一人で、リストを眺めていた。


 やがて、ステラがやって来た。手には、交易会議で決定したであろう、依頼のリストが持たれている。


 ただ、いつもの作業着ではなく、黄色いインナーに白い薄肩掛け、腰下は深緑のスリットつきスカートという出で立ちだった。


 「あら、ラクトじゃない。今日もいるのね」

 「おう」


 ステラは、新しいリストを、いつものようにせっせと大扉へ貼り出した。


 「……」


 依頼リストが貼られると、そのリストをラクトは凝視しようとした。


 「はい、これ」

 「えっ?」


 すると、ステラが振り向いて、1枚、ラクトに差し出した。


 「これでしょ?待ってたの。メロ共和国の、ラクダ50頭の交易依頼」


 ステラから、リストを受け取る。


 「……ああ、これだ。サンキューな」


 ラクトはステラに礼を言った。


 「ラクト、今回の交易会議、出てなかったっけ?」

 「ああ。酒場内に人が混みすぎて、入れなかったんだ」

 「そうね。床に座ってる人もいたもの」


 ステラはてきぱきと、他の依頼リストも大扉に貼り付けてゆく。


 「あれ?おいステラ。俺のもらったのと、同じリストが貼ってあんぜ?」

 「そうよ。今回は、20人ほどで向かう、大型の依頼になるから」

 「あぁ、そういうことか」

 「……よし!今日はこれで終わり!」

 「お疲れ」

 「……」


 無言で、ステラは周りを見渡している。


 「どうした?」

 ラクトはステラに聞いた。


 「えっ!?い、いや、別に!」


 その後、やたらと周りをキョロキョロしながら、ステラはどこかへ行ってしまった。


 ……いよいよか。

 ラクトは思った。


 ステラが去ったあと、行き違うかたちで、ミトとマナトがやって来た。


 「やあ、ラクト」

 「あっ、それ、メロの依頼書じゃない?」

 「おう」


 3人で大衆酒場に入る。カウンターにいる店主に話しかけ、メロの交易依頼リストを渡す。


 「俺たちも、受注するぜ」

 「あいよ」


 店主はリストを受け取ると、少し大きめの、木片の書簡と筆を取り出してきた。


 「これに、名前を書いてくれないか。大人数の場合は、こうやって一覧にして、誰が不在か分かりやすくしてるんだ」

 「了解」


 3人はそれぞれ、署名。


 「てか、すでに書いてある名前があるな」


 数人の隊長の名前が記入されている。その中にケントもいた。また、ムハド大商隊の副隊長陣のリート、現在、メロ共和国に先行している、セラとジェラードの名前もあった。


 そして、ムハドの名前。


 「えっ!ムハドさん達、行くんですか!」


 ミトが驚きの声をあげた。


 「そうだね」


 マナトは、ニコニコ笑顔をしている。


 「お~い、お前ら~」


 と、テーブル席の一角で、ケントが、3人を呼んでいた。


 (キャラバンの村、長老の決断 終わり)

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