10 キャラバンの村/宴

 キャラバンの村の中央には、四角い石を敷き詰めることで舗装された、円形の大広場がある。


 昼は市場が並んでにぎわい、また、夜になっても、大広場の随所で灯りの火がゆらめき、外を十分出歩けるほどに明るく、人の行き来は多かった。


 そして、グリズリー襲撃の夜、その大広場はお祭り騒ぎとなっていた。


 たくさんの人が、それこそ老若男女問わず集まっていて、その中心にはミトがいた。


 「ミト!あんたの狩ったグリズリーで、こしらえてきたよ!」


 村一番の料理上手と評判の、恰幅のよい婦人が、ミトの目の前に、大皿と大釜をドン!と置いた。


 大皿の上には、グリズリーの肉を薫製してつくったスモークジャーキーがドッサリ、大釜の中には、グリズリーで取ったダシと、村で栽培している野菜や穀物が入った熊汁が、釜一杯に入っていた。


 「まず、あんたが食べておくれよ!」


 婦人に促されるまま、ミトは熊汁を小さなお椀に入れてすすり、スモークジャーキーを口に放り込んだ。


 「うま〜い!!」


 ミトは絶叫した。


 「よし!みんなも食べな!あの食糧泥棒のヤツ、ホントにデカかったから、全然、余裕あるからね!」


 婦人は満足そうな顔をして言うと、周りにいた者達にもふるまい始めた。


 「やった!」

 「わ〜い!」

 「いただきま〜す……んめぇ!」


 他にも、お祝いにと、菜園から果物を持ってきてくれる者、助けてくれたお礼にと、干し魚を持ってきてくれる者、お酒の樽を開けてくれる者もいて、大広場は大いに盛り上がった。


 「モグモグ……みんなさ、ミトがグリズリーの一撃くらった時、やられたって思ってただろ?違うんだよ!俺達の視点からだとよく見えてて……ゴクゴク」


 護衛担当だった青年が、スモークジャーキーを食べて酒を飲みながら、周りの人らに先のミトとグリズリーとの闘いを興奮気味に説明していた。


 「ミトって、あんなに強かったんだな〜。ズズズ……」

 伝達係だった青年も、熊汁をすすりながら、しみじみと言った。


 「ちぇっ、こんなにみんなの注目の的になるんだったら、俺も村の中でやりゃ良かったぜ。わざわざ俺、密林の奥深くまで行ったのによ。見てたの長老と一部のヤツらだけだったし」

 ラクトは言うと、干し魚をムシャムシャ食べて、酒を飲んだ。


 ちなみにラクトはミトより先にキャラバン最終試験を終え、合格していた。


 「いや、ラクト。僕が一番戸惑ってるよ、この扱いに」

 周りの会話をずっと聞いていたミトも、苦笑まじりに言った。


 「キャラバン最終試験で、こんなに盛り上がるとは思わなかったよ」

 「そりゃあお前、目の前であんな闘い見せられたら、そりゃ盛り上がるだろ。今日一日は、お前は村の英雄だぜ」

 「参ったな〜。過大評価だよ。まだキャラバンとして交易品の一つも村に持ち帰ってないのに」

 「まあ、この村のヤツらはみんな、お祭り騒ぎが大好きだし、キャラバンの先輩達が交易品持って帰ってくるたび、こんな感じに……あっ、ほら、あそこ」


 ラクトが指差した。


 見ると、どこからか楽器を持ってきて、演奏を始めた者がいる。すると、それに合わせて踊り始めた者達もいて、気がつけば護衛担当も踊りの輪の中に入っていた。


 「なるほどね。いいきっかけにはなったって、考えればいっか」

 「ああ。……そういえば」


 ラクトが思い出したように、ミトに聞いた。


 「マナトは、どこいるんだ?」

 「ああ。マナト君は今、長老のところだよ」

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