533 アイーダVSミト

 「!」


 曲剣の伸びるスピードが速い。足を踏み込んで回避する余地がなく、ミトは身体を自ら横向きに倒した。


 ――キィン!


 倒れながら、伸びてきた曲剣をダガーで払いのけた。曲剣の軌道が変わって上向きに刃先が向く。


 「くっ!」


 倒れる寸前に手を地面に着かせ、ミトが素早く受け身を取った。


 ――ザザ……!


 ステージ床に、ミトの麻製の靴が摩れる音が鳴る。


 「いい反射神経してるわね」

 アイーダは言った。


 伸びた曲剣が、やはりバネのように元の長さに戻る。


 ……やっぱりあの女の人、強い!でも、それ以上に……。


 マナトは観戦しながら、思った。


 ……エロすぎる。


 アイーダが激しく動くたびに、その大きな胸と、お尻が激しく揺れていた。アイーダ自身も、それに恥じらいをまったく感じている様子がなく、むしろ動きはどんどんよくなっている。


 そして、動きがよくなればなるほど、フェロモンも溢れ出ていた。


 ――ぬおおおお……!!


 観衆の男たちの、喜びに満ちた歓声が沸いた。


 「あ、危なかった……!」


 ミトがすぐにダガーを前に構える。


 すかさずアイーダが跳躍。


 ――ブンッ!


 アイーダの、横から薙ぐ一閃。


 ――シャァァ……!!


 ムチのように曲剣がしなる。金属が摩れるような音とともに曲剣の刃が一気に伸びた。


 「うわ!?」


 ミトが咄嗟に身体を仰け反らせた。


 ――シャァァ……!!


 ミトの、ほんの少し上を、曲剣がもの凄いスピードで通り抜ける。


 「ミトぉ!大丈夫か!?」

 ステージ上手側から、ラクトが大声で叫んだ。


 「なるほど、あんな感じで……!」

 ケントが真剣な顔で、時おりつぶやきながらステージの上を眺めている。


 「ミト!がんばれ~!!」

 マナトも大声で応援した。


 「距離詰めろ!」

 「いや、難しいんだろ!あの剣相手だと!」

 「ヤバい胸にばっかり目が……!」

 「サイテー!!」

 「なんでもいいや!ミト!勝て~!」


 商隊の皆も、ステージ上を注視して、やんややんやと言い合っている。


 「……んっ?」


 大声をあげた後、マナトはムハドを横目で見た。


 「……」


 この戦いの始まる最初に、もう負けてもいいと言ったように、ムハド自身あまりステージ上の戦いには興味がなさそうで、先ほどと同じように、時おり、チラチラと辺りを見回していた。


 「ムハドさん?」

 「んっ?おう、どうした?」

 「誰か、探してるんですか?」


 マナトは問いかけた。


 「あぁ、いや……」


 少し間を置くと、ムハドは、つぶやくように言った。


 「さっき出ていった公爵と執事……おそらくジンの出現情報が入ってきたんだと思う」

 「えっ」


 ムハドのその声は大きくなく、すぐ隣にいたマナトにしか聞こえていなかった。


 「マナト、変なこと、聞いていいか?」

 「えっ、あっ、はい」

 「俺だけでなく、このヤスリブ世界の人間は、皆、ジンがいなくなればいいと思ってる。もちろん、このヤスリブにも哲学者のような者がいて、ウームーの書簡のようなことを謳う者もいるが」

 「……」

 「リートから、湖の村のジン=ジャンという存在を、聞いた」

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