532 曲剣/ムハドの視線の先

 「セクシーさもそうですけど、明らかにあの人、強いオーラ出てますよね……」

 マナトは言った。


 ステージ中央、アイーダが、その手に持つ剣を前に突き出した。


 「なんだ?あの武器……」


 マナトは目を細めた。


 先のサロンメンバーが使用していたレイピアとは、違っている。


 その剣の、柄の部分まではレイピアと同じように十字の形をしているが、その両刃はなめらかに曲がりながら螺旋を描いて、それは刃先まで続いていた。


 「マジか!あの姉ちゃん、曲剣きょくけん使うのか……!」

 ケントが興味深そうに言った。


 「曲剣?」

 「おう。まあ、見た通りの、曲がった剣だな。剣筋が伸びたり曲がったりで独特すぎて、習得するのが難しいと言われている武器だ」

 「なるほど」

 「ちなみに演舞で映える武器でもある」

 「へぇ~。ケントさん、詳しいですね」

 「俺も習得しようとして、練習してるんだよな」


 と、ステージ中央、ミトも腰につけているダガーを握った。


 「ウフフ……久しぶりに、そんなに真っ直ぐに見つめられたわ」


 アイーダが、少しねっとりとした、妖艶さが後を引くような声で、ミトに言った。


 「私を見るとき、男の人の目線って、大抵泳いでることが多いのよ。この胸とか、お尻とかにね……」

 「そうですか」

 「それが、あなた、真っ直ぐ見つめてきてる。私の目だけを」

 「いや、僕も、見てました」

 「えっ?あはは!正直でかわいいわね!それにしても、あなた、ダガーでいいの?」

 「?」


 アイーダの言葉に、ミトのダガーを握る手が、ピクリと動いた。


 「私のこの武器だと、刃の長さが短いダガーでは不利よ?どんなに頑張っても、私のそのやいばは、届かないと思うわ。待っていてあげるから、武器、変えてきたら?」

 「大丈夫です」


 ミトは、いつも通りの爽やかな笑顔をアイーダに向けた。


 「僕は、ダガーが一番、慣れているので」


 言うと、ダガーを抜いて、前へ。


 「……それに、届かせてみせますよ、あなたに。ダガーの刃を」

 「あら……」


 ――キィン。


 曲剣と、ダガーの交わる、金属音。


 ――わぁ~!!


 「……」

 「……んっ?」


 アイーダとミトの戦いが始まり盛り上がる中、ムハドもケントと同じくマナトの隣にいたが、ずっと、別のところへ視線を向けたままだった。


 「……あの、ムハドさん?なにを見て……あっ」


 気になって声をかけたが、ムハドの視線の先が、マナトにも見えた。


 この国の公爵であろう人物と、その執事であろうか……2人が足早に外へ出ていく様子だった。


 「んっ?おう」


 ムハドが気づいて振り返った。


 「いや、ずっとステージ見てなかったので、どうしたのかなと思って」

 「う~ん……」


 ムハドは少し考えている様子だった。


 やがて、言った。


 「これからの、この国の混乱を考えて、ちょっとナーバスになっちまってた」

 「この国の、混乱……?それって今の、ジンの件と関係が……」


 ――おぉ~!!


 周りの声が、マナトとムハドの会話をかき消した。


 ――シュッ!


 初手、アイーダが踏み込んで曲剣で突きを放っていた。


 しかし、その突きはミトに届いてない。


 と、思ったその時、


 ――グゥゥィン!!


 曲剣の刃が、まるでバネのように伸びて、その刃先がミトに襲いかかった。

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