531 次の対戦者/アイーダの装い

 「あら、かわいらしい男の子が上がってきおったわぁ」


 ハウラが少し、身を乗り出してステージを眺めた。


 「ウチの好みやねぇ。でも、それに対して、あの踊り子のお姉さん、ウチと同じくらい胸が大きい上に、あの見せびらかすような……」

 「ははは!」


 ハウラのかすかな嫉妬心を感じ取ったアブドは笑った。


 「あの若者が、悩殺されないか心配かね?」

 「ええ。ほんま、ああいう悪い女、どこの国にもおんねやなって。そう思うやろ?ユスフ」

 「……」

 「……ユスフ?」


 聞こえていないのか、ユスフの視線は、ステージ上手側から上ってきた対戦者に注がれていた。


 「アイツ、あん時の……!」


     ※     ※     ※


 ステージの上に立ったのは、ミトだった。


 「うぅ……ミトのヤロォォ……」


 ステージの下から、唸るようにラクトがミトを睨みつけている。


 「お前もだぞぉぉ」


 ラクトが振り向いて、恨みの孕んだ声でマナトに言った。


 「なんで呼んでくれなかったんだよぉぉ……」

 「えっ?あっ、あはは……」


 マナトはラクトの視線を、サーシャに受け流した。


 「……仕方ないでしょう。気づかなかったあなたが悪いわ、ラクト」

 「サーシャ、てめぇ、分かってやがったなぁ……」

 「ウフフ……」


 むしろ、ラクトが戦わずに済んでいることを、サーシャは喜んでいるようだった。


 「……」


 と、ラクトがいつもの表情に戻り、微笑むサーシャをまじまじと見つめた。


 「……なに?」

 「やっぱり、またちょっと変わったよな?サーシャ」

 「えっ!……いや、その……」

 「んだよ、その反応」

 「……」


 すると、サーシャはラクトから視線を反らして、ステージを見た。ラクトもつられてステージのほうに視線を向けた。


 ステージ上、アイーダと、ミトが、ほぼ同時にステージ中央へと歩を進めている。


 「……あなたが休んでいる間に、いろいろ、あったの」

 「いろいろ?」

 「……今は、話したくない」

 「はぁ……いやまあ、別にいいんだけどよ」

 「……いろいろ落ち着いたら、ゆっくり、話したい」

 「仕方ねえなぁ。分かったよ」


 ……ラクトって、やっぱりモテるのかな?


 2人を見ながら、マナトは思った次の瞬間、


 ……あっ、また、どこからか、ものすごい視線を感じる!!


 背筋が凍る感触をマナトは覚えた。


 ……もう、なるようにしかならないだろうなぁ。


 マナトは視線をステージ戻した。


 ミトとアイーダが、ステージ中央あたりで止まる。


 「……」

 「……」


 しばし、無言で見つめ合っている。


 大きな胸には、ネイビー色の胸当て、お腹のくびれから腰にかけて大きくなる尻に、同じくネイビー色の腰巻き。その上から、薄透明の紫の肩掛けを羽織っている。


 肩掛けが透けているためか、胸当てと腰巻きが下着のように見えてしまうほどのセクシーな出で立ちの上、明るい茶色の、ウェーブのかかった長い髪の毛が、彼女の色気を更に増していた。


 ……目のやり場に困る。


 相手の、アイーダの装いを見ながら、マナトは思った。


 ――フレッフレ~!!!


 先よりも大きな男たちの声援が、ステージを包む。


 「おいおい、お相手、めっちゃセクシーな装いだな。ミト、大丈夫か?」


 いつの間にか、ムハドがマナトの隣に来ていて、苦笑混じりに言った。


 「あぁ、そうですね……ミトは、多分、大丈夫ですよ。そういうのに、あまり興味がなさそうというか」

 「ふむ、そうか」

 「少なくても、ラクトよりは大丈夫かと」

 「あはは!それは、なんとなく分かる」


 ムハドは笑った。


 「……んっ?」


 と、ムハドが横を向いた。

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