530 執事の報告/平穏の終わり
マナトは呼ぶのを止め、ケントのくじ引きに加わった。
「せ~の!それっ!」
ラクト抜きで、次に誰が戦うか、くじを一斉に取った。
※ ※ ※
「あのひげ面のおっさん、なんかしたな……?」
他の観客席よりも高めに設置されている特別席から、ユスフが身を乗り出して、興味津々にステージを眺めている。
「あのかわいらしい女の子、さっきまで、いい感じに動けていたように見えとったけど、どないしたんやろ?」
ハウラもステージを見ながら言った。
「……あぁ、針で手の甲、刺されてもうたぁ」
「彼の勝利、か。たしか、ジェラードといったか……」
アブドはジェラードに視線を注いだ。
ジェラードが、悠々と、何事もなかったかのようにステージを降りてゆく。
対して、相手のほうは、まだ立ち上がれないようだった。
「ちょっと!?どうしたの!?」
「大丈夫!?」
サロンリーダーのアイーダ、また数人のがステージに上がってきた。
「……あ、あれ?」
と、先まで動けなかったそのメンバーが、立ち上がった。
「う、動きました……」
自分でも不思議なように、手の指を動かしたり、腕を回したり、足踏みしている。
「リーダー、申し訳ございません」
そして、アイーダに向かって、頭を下げている。
「ご苦労さま、下がってなさい。あたしが敵を取ってあげる」
戦っていたメンバーは、仲間に連れられ、ステージを降りた。アイーダはそのまま、ステージに残っている。次、戦うつもりのようだ。
「……んっ?」
執事が一人、特別席に上がってきた。
……あれは、ムスタファ公爵の、執事か。
その執事は、アブド達の後方に座っている、国防担当の公爵のところへと向かった。
「すみません、公爵……」
なにやら耳打ちしている。
「……承知した」
すると、国防担当の公爵が立ち上がった。
「失礼。急用のため、これで……」
近場にいた他の公爵たちに言うと、特別席を降りていった。
「君」
国防担当の公爵に続いて特別席を去ろうとしている執事に向かって、アブドは声をかけた。
気づいた執事が、アブドのもとへ。
「私も、聞いておいたほうがよさそうだ」
アブドは、国防担当の公爵と同じように、執事から報告を聞き取った。
「……分かった」
執事はアブドへ合掌すると、国防担当の公爵を追い、特別席を降りていった。
「なんか、あったんです?アブドはん……」
ハウラが顔を近づけて、ささやくように言った。
「ああ。君らには、隠しておいてもしょうがないから、そのまま言っておこう」
アブドは言った。
「ジンの出現情報だ。そして、国民の中で、とうとう、血の確認を巡って、局地的に本格的な衝突が始まったようだ。……いよいよ、平和が乱れ出したようだな」
「あら、外でも、あのステージのような感じになってもうたんやねぇ」
「ははは、まあ、状況的にはそうだが」
ハウラの言葉に、アブドは思わず笑ってしまった。
……この女、すべて分かっている上で、冗談を言いおって。
「アブドはんは、ここにいて大丈夫なんです?」
「まあ、聞いた限りでは、まだ護衛たちの力で、なんとかなるだろう。……明日からは、どうなるか、分からんが」
アブドとハウラが話していると、ステージ上手から次鋒の者が上ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます