560 オルハンVSマナト③

 「あぁ~!!」

 「オルハン先輩!!」

 「センパ~~~イ!!」


 なにか棒のようなもので突かれたように、水圧の勢いに負けてオルハンが押し出された。


 「ふぅんぐっ!!」


 ステージ端ギリギリのところ、オルハンはなんとか踏みとどまった。


 ――スタッ。


 「……まあ、こんなもんじゃ、さすがに勝たせてくれないよね」


 ステージ中央付近で着地し、マナトは言った。


 ――うわあぁ~!!


 「か、かっけえじゃねえかよおい!」

 「んだよ!アイツ戦ったらつええじゃねえか!」

 「いいぞマナトとかいうヤツ~!!」


 周りが熱狂のるつぼとなる中、オルハンを応援しているガスト達は真っ青になっていた。


 「なんなんだよ、あのターバン野郎……!」

 「つええ……」

 「てかオルハン先輩、攻撃くらって大丈夫なのか!?」


 ――タッッ!


 オルハンが動いた。マナトに回り込むかたちでステージを駆ける。


 「よ、よかった!すぐに動けてる!」

 「くらったけど、傷はない感じだな……!」


 被弾してしまったが、オルハンに大したダメージはないようだ。


 「クッソ……!」


 だがその顔は険しく、一切、余裕がないように見える。


 相手の水を操る能力の、まさに流れるような、攻撃の連続……なんらかの関係で先手を譲ったようではあるが、オルハンは反撃の機会もなく、その果てに、避けきれず水の光線を被弾してしまった。


 完全に、相手にペースを握られている。


 「オルハン落ち着くのよ!!」

 「まず態勢をたて直すんだ!!」

 「負けたら承知しないわよぉぉぉ!!」


 ステージ上手から、男女の大声。


 「落ち着いてるっつ~の!!お前らこそ落ち着けよ!!」


 駆けながら、オルハンが叫び返した。


 ――シュルルル……。

 ――シュルル……。


 飛んでいた2本の水流がマナトのもとへ戻り、マナトの身体を纏うように回った。


 「……」


 そのマナトは、駆けるオルハンに身体を向けつつ、静かにステージ中央にたたずんでいる。


 「あのヤロウ、余裕ぶっこきやがって……!」

 「お、オルハン先輩~」

 「おい!なに弱音みたいな声出してんだ!こっちも応援するんだよ!」

 「……んっ?」


 ふとガストは、少し静まっている様子の、ステージ下手側を見た。


 下手側では、マナトの仲間たちであろうメンバー達が、戦いを見守っている。


 「……」


 だが皆、ポカンと口が開いて、ガスト達以上に唖然とした表情で、ステージを見上げていた。


 「ま、マナトって、あんなに……?」

 「いやぁ、たまに訓練はしてたみたいだけど……?」


 時おり、仲間同士でささやき合っている。


 どうやらステージで戦う仲間の姿に、そもそも驚いていることが、彼らの表情からうかがえた。


 やはり、ステージの上手側と下手側で、明らかに熱量が違う。


 ――ジジジジ……!!


 「!」


 水が、唸り声をあげている。ガストはオルハンを見た。


 次の瞬間、


 ――ブゥゥゥウウン……!!


 マナト目掛けて、オルハンが両手でウォーターアックスを垂直に振りかざしていた。


 「あ……!!」


 ――ジジジジ~ジジジ……!!


 オルハンの振り抜いたウォーターアックスが飛ぶように伸びる。まるで激しく波打つムチのように、ものすごい唸り声とともに、その水の刃はマナトに降り注いだ。

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