253 サーシャの挨拶

 マナトとニナが馬車を見ていると、馬車を覆っていた布がまくり上げられた。


 まず、割烹着姿の召し使いが出てきた。地上に降りるための台のところに、白いシャープな、爪先の開いたヒールを置いた。


 すると、馬車から細く白い足が出てきて、スッとヒールを履いた。


 召し使いが、一礼。護衛達も、馬車へ向かって、一礼。


 サーシャが出てきた。


 前に見たときの、青く汚れたピンクのフワリドレスではなく、ベージュの色をベースに黄色の水玉模様の、動きやすそうな、スラッとしたタイプのドレスを身につけている。


 左手で、長いストレートの金髪を後ろに下げると、その琥珀色に輝く瞳で、ケント商隊に目線を向けた。


 「……」


 無言で、こちらにゆっくりと、近づいてくる。サーシャの傍らには護衛がついていて、同じく歩いてくる。


 5人、そして、シュミットとニナの前で、サーシャの麗しいながらも、あまり感情を感じられない声が響いた。


 「行きましょう」


 そして、一言だけ言うと、サーシャは振り返った。


 「んっ!?」

 「あの美人、誰だ!?」


 道行く鉱山の村の男達が、思わず足を止める。


 彼らの目線もまったく気にすることなく、サーシャは馬車に戻っていった。


 「あの琥珀色の瞳……」


 サーシャが馬車に入ったのを確認した後、リートがつぶやいた。


 「アクス王国の王家、メネシス家の血筋の者じゃないすか?」

 「おっ、さすが、リートさん。正解」

 ケントが言った。


 「なんで、メネシス家が、岩石の村にいるんすか?」


 リートはシュミットに聞いた。


 「……」


 シュミットは、分かっているような、分かっていないような、どちらにしろ、困ったような笑顔をリートに向けた。


 「あっ、なんか、いいっすよ、答えなくて。ワケありって、ことっすね」


 察した様子で、リートは言った。


     ※     ※     ※


 鉱山の村を出て、一旦、キャラバンの村へ。


 ラクトは後ろを振り向いた。


 「まるで、行軍だな」


 隣で歩く、ミトに言った。


 ケント商隊、また、商隊の後方につける形で、納品するラクダとサーシャの乗った馬車、それらを取り囲む護衛隊が、歩を進めていた。


 「ホントにね。あれだけ厳重なら、盗賊が襲って来ることはないね」

 「だな」


 クルール地方の盗賊は、多くても30人くらいで、50人の手練れがいれば、まず襲ってこないというのが、通説となっていた。


 すると、話が聞こえていたのか、前を歩くリートが振り向いた。


 「たしかに、これなら、盗賊は大丈夫かもっすけど……」

 「えっ?」


 同じような会話が、護衛隊のほうでもされていた。


 「つ~か、やっぱりアイツら、必要なくね?」


 前を歩く商隊を見ながら、護衛の一人が言った。


 「ああ、別に俺たちだけで、サーシャさまを、メロ共和国をお連れすること、できたよな」

 「この人数で、盗賊が襲ってくるわけないだろ」

 「でも、大枚はたいて雇ったらしいぜ、アイツら。信じられん」

 「ホントだよな」

 「てか、あぁ、喉乾いたんだけど……」

 「はい、どうぞ!」

 「えっ?」


 水の入れたコップを、マナトが差し出していた。


 「おぉ。なんだお前、気が利くな」

 「ええ。ぜったい、喉乾くと思いまして」

 「あんがとよ……ゴクゴク」

 「お~い!そこのキャラバンの兄ちゃん!こっちにも!」


 護衛の一人が水を飲んでいるのを見て、他の護衛達も手をあげている。


 「はい、ただいま!コップ回し飲みだけ、我慢してくださいね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る