283 道中④/ミトとラクトの期待

 「無自覚……ウフフ、そうかもしれないですわね」

 「もしかしたら、本来のサーシャさまは、あのように、積極的な性格なのかもしれないですね」

 「あらやだ!もしそうなら、召し使いとして、見過ごせませんわね!変な男が寄って来て、それこそ小鳥のように連れ去られないように!」

 「あはは!あなたが近くにいれば、安心だ!」

 「ボクもいるからね~!」


 ニナが、笑い合うシュミットと召し使いの間で、ピョンピョン跳ねた。


     ※     ※     ※


 サーシャがラクトと会話を終え、もといた岩石の村のみんなのもとへ戻っていった。


 「おい、マナト」


 すると、ラクトが、後方を歩いていたミトも連れてマナトのもとへやって来た。


 「あっ、ラクト。サーシャさんとの会話、ちょっと聞こえてたんだけど、なんか、僕の前にいた世界のこと、ハチャメチャに言ってたでしょ」

 「ままま、いいじゃねえか。それよりマナト、いよいよだな……!」


 コソコソ話するような、小さい声でラクトは言った。


 「えっ?なにが、いよいよだっけ?」

 「ムハドさんの戦いが見れるのが、に、決まってるだろ……!」

 「あぁ、それね……」


 マナト、またミトもラクトも、先頭を歩いているムハドに目線を向けた。


 マナト達のいる位置からだと、先頭は少し遠めだが、その後ろ姿はハッキリと見えた。


 ベージュのマントを羽織っていて、時おり吹く風にマントが揺れている。


 そして、時おり隣を歩いているリートのほうを向いて、会話をしているようだった。


 「やっぱり、リートさんより、強いのかな?」

 ミトが言った。


 「マジで?それヤバすぎじゃね?あの人この前、ロアスパインリザード、一人で倒しまくってたんだぜ?」

 「だよね。リートさんより強いって、もう、ちょっと、想像つかない」

 「でも分かるぜ。ムハドさんなら、ぜんぜん、あり得るよな」

 「そうなんだよね」

 「きっと、とんでもない力で、敵を一瞬で負かしてしまうんだろうぜ」


 ミトとラクトが、ワクワクした表情で、言い合っている。キャラバンの村の英雄である、ムハドの強さについてだった。


 実は、ムハドに関して、その強さを口にする者は、キャラバンの村では誰もいなかった。


 ミトやラクトといった、村の若い者達はみな、ムハドの強さに強い興味を示しながらも、その実態を掴めずにいた。


 ムハドの大商隊に参加していたキャラバン達に聞いてみても、教えてもらえず、ケントですら、ニヤニヤしながら「自分の目で、確かめてみな」と言うのだった。


 それによって、なんとなくムハドがどれほど強いかということや、どんな力を持っているのかを村で聞くのは、ナンセンスな雰囲気がそれとなくあった。


 それが、この度、いよいよ実際に見れるかもしれない。


 「盗賊とか獰猛種の生物の襲撃があれば、おそらく見れるんだろうけどね」

 「そうだな」


 マナトの言葉にラクトはうなずくと、ため息まじりに言った。


 「あぁ、今回ばかりは、盗賊のヤツらが、ちょっと、待ち遠しいぜ……!」

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