404 マナトの一言

 「あなたとウテナさまがどういった関係かは存じ上げませんが、あなた、ウテナさまになにか特別な感情を持ってそうなのであります!」


 ズバリと、ミリーはラクトに言い放った。


 「なっ……!」

 「あ~!もう、ゼッタイ、 ダメであります!!」


 ラクトの表情を見たミリーが、指差しながら言った。


 「う、うるせえ!とにかく、ここにいるといずれ……!」

 「いま、ウテナさまに、変な刺激はよくないのであります!」

 「変な、刺激……?」


 ラクトをにらみつけるミリーの目は、必死だった。


 「ウテナさまは、いまは、刃物のない、安全で静かな天廊の奥の間で、過ごす必要があるのであります。いまもやはり、まだ、時々、声が……」


 ――ザッ。


 「!?」


 ミリー側から見て、ラクトの奥……天廊と諜報員本部を繋ぐ扉から、一人の男が入ってくるのが、見えた。


 「なるほど……ここにも、もう一人、いたのか……!」


 少し誤算だっと言わんばかりの表情を浮かべながら、マナトは天廊内に入ってきた。


 「……まるで、空の上にいるような感覚になりそうだな」


 芸術作品を鑑賞するかのように見渡し、つぶやきながら歩を進めると、ラクトの隣に立った。


 「マナト、お前、下の奴ら、撒いてきたのか!?」


 ラクトが驚いて、言った。


 「!」


 ミリーから、これまでにない覇気が、ごうごうと漂い始める。


 「あっ……!」


 ついつい、ラクトは口が滑ってしまったと思った。


 「マナト……ウテナさまが言われていた……あなたであります」


 ミリーが、マナトを見据える。


 ――ググッ……。


 双剣を握る手に、ものすごい力が入っている。


 「ラクト……」


 マナトが、霞がかった小さな声で、言った。


 「チャンスは、一回だけだと思う、僕にヘイトが向く瞬間に、振り切って先に行くんだ……」

 「お前、また……!」

 「大丈夫」

 「……私の部下を、後輩たちを、どうしたって言うんでありますか?」


 ミリーが言った。声が低い。マナトに対しては、ラクトと相対したときより、露骨に敵意むき出しになっている。


 「……どうしたって、そんなの……」


 すると、マナトはフッと微笑みながら、少し楽しそうにも見える顔になって、言った。


 「殺したに決まってるじゃないですか」


 ――バッ!!


 「ぬあああああ!!!!!!」


 叫びとともにその力を解き放ったミリーが、弾丸のような速さでマナトへ向けて襲いかかってきた。


 「いま!」


 ――バッ!


 マナトの言葉に、ラクトは反射的に飛び出していた。


 「!?しまっ……!」

 「……」


 一瞬、ミリーの全殺意がマナトに向いたことでできた抜け道を、ラクトは見逃さなかった。


 「……」


 ――タン!


 天廊の床を蹴る。ラクトは振り向かなかった。


 ――キィン!!


 後ろで、刃物の交わる音。


 ……迷うな!!


 自分に言い聞かせる。


 曲がり角。


 ――タン!!


 壁を蹴る。


 「ウテナ……!!」


 ラクトは一気に天廊を駆け抜けた。

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