403 戦人(いくさびと)、その血

 ミリーが、双剣の構えを解いた。


 「……」


 険しかった表情が、幾分かやわらぐ。


 双剣は持ったままで、ミリーの戦闘意思が消えているわけではなさそうだが、いまは、攻撃する気がないことは、ラクトも察することができた。


 「久しぶりに、私と同じくらいの、戦人いくさびとの血の濃さを持つ者と、出会ったのであります」

 「戦人の、血の濃さ……?」

 「はい」


 ミリーが言う。


 「普通に過ごしていれば、あなたも、おそらく経験が、あるはずであります。それも、一度や二度ではないはず。すなわち、他の人びとに比べ、身体能力に優れている、感覚……」

 「……」

 「私たちの身体の中に流れる血は、他の人種よりも熱く、身体を巡る速さも速く、そして、そのエネルギーを、身体能力へと昇華することができる……他の人種とは、違う力を持つ人種なのであります」

 「……」

 「それにより、これまでの歴史上、数多の戦で活躍してきた私たちの祖先は、戦人いくさびとと呼ばれ称されるようになった」

 「……」

 「つまり、私たちの強さは、いわば、生まれつきのものであります」


 ……そうだったんだ。


 ラクトは、ぜんぜん、知らなかった。


 「しかし、このヤスリブの長い歴史の中で、私たち戦人の祖先は、いつからか、混血の道を選んだ」

 「混血の道……」


 ミリーが、自分の目を指差した。濃いめの、青い瞳が輝く。ラクトの明るめの茶色の瞳とは、まったく違う、色。


 「私も、そして、あなたも、混血が進むうちに、戦人の血は薄れていっている。いわば、私たちは、亜種のようなもの……それでも、その血を受け継ぐ者にはやはり、身体に戦人の能力が宿っている……」

 「俺にも……」

 「……なるほど、なるほど」


 ミリーが、納得したように、何度かうなずいた。


 「ラクトさん、と、いいましたね」

 「ああ」

 「先ほどは、いきなり仕掛けて申し訳なかったのであります」

 「あぁ、いや……」

 「ラクトさんのその力で、下にいた、私の後輩たちを、どうしたのでありますか?」


 くわっと、ミリーの顔が、再び、険しくなった。


 「……」


 ……どう答えりゃいいんだ?


 下の諜報部隊に関しては、マナトが対応しているはずだ。


 しかし、そのことを、言うべきではないような気が、ラクトはしていた。


 ……やべぇ!わかんねぇ!おい!マナト!どうすりゃいいんだ!?


 「……ま、撒いてきた」


 ……あっ、うまく言えたんじゃね?


 「……そうですか」


 ――チャキ……。


 ミリーが再び、双剣を構える。


 「もうひとつ、その力をもって、ウテナさまに、なにをされるつもりでありますか?」


 ミリーが問いかける。


 「なにもしない。ここから、連れ出すだけだ」

 「ウテナさまは、ここにいるべきであります」

 「ダメだ。ここにいると、ウテナは危険だ!」

 「外のほうが危険であります!!」


 ミリーはラクトに言い返す。


 「それに、あなたとウテナさまは、なんとなく会うべきではないと、私の中の私が、言っているのであります!」

 「はぁ!?んだよそれ!!」

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