352 変わりゆく日常③
「あたしの姿で、護衛たちを……」
「そうだ」
ムスタファがうなずき、続けた。
「大通りを外れた通りで、護衛隊が血の確認中、血の流れない黒髪の男……ジンを発見した。ジンは逃げ、護衛たちは追いかけた。だが、あろうことか、今度はウテナくんの姿となって現れたのだ」
「……」
「しかし、護衛隊長が機転を効かせて、それが先まで追いかけていたジンであると見破った。だが……交戦した護衛たちは、ことごとく深手を負わされてしまった。そして、ジンは、その場を立ち去った」
「そんな……」
「そ、その護衛たちは大丈夫だったのですか……!?」
フェンが心配そうに尋ねる。
「大丈夫。皆、深手を負ってはいるが、幸い、命に別状はなかった。もっとも重症だった隊長も、いまは、会話できるほどに回復している」
「そうですか……」
「完全に、私の失態だ……」
ムスタファの、その青い瞳に、悔しさの感情が浮かんだ。
「血の確認を進めてゆけば、このままあぶり出せると信じていた。……だがそれを、相手はそれを嘲笑うように凌駕してきてしまった。そして、ウテナくんへに化け……とうとう、ジンが、この国で本格的に活動を始めてしまった。いよいよ国が、崩壊へと、向かい始めている」
そして、ムスタファはウテナに言った。
「君が感じた気配……それは、君がジンかもしれないという恐怖と、もしジンだったら、許さないという、憎悪の視線だろう。……我々公爵が、最も危惧している視線だ……!」
「私に……恐怖と、憎悪……」
「もちろん、君に向けられている訳じゃない。だが、ジンが次々と護衛を半殺しにしてゆくのを、見てしまった者たちがいる。もう、公爵の力をもってしても、情報操作はできない段階になってしまった」
「……」
ウテナは呆然としてしまった。
「これが続くことで、国の混乱が始まるのは目に見えている。だからこそ、初期段階で手を打たなければならない。……護衛隊長が命をかけて、その尻尾を掴んでくれたのだ。もし護衛隊長がジンと暴かなければ、もっと後手に回っていて、手遅れになっていたに違いない」
「……」
「彼らのためにも、君も、協力してほしい」
「あたしは、どうすれば、いいのでしょうか……」
ウテナの問いかけに対し、ムスタファは右手をあげた。
――サッ!
諜報員の一人……召し使い風の黒と白の割烹着を来た若い女がムスタファ公爵の隣に立った。
「ひとつは、ウテナくん、君の徹底的な監視だ。君の側には、常に、私の配下が順番に、朝から晩まで……寝ている間も、見張りをつけさせてもらいたい」
「寝ている間も……」
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