109 マナト/水の修練②

 ――シュルルルシュルルウゥゥ。


 湖の上を、2つの水流が飛び交う。


 長く尾をひいたそれらは、8の字の軌道を描きながら、ジェットコースターのような速さで周回していた。


 「もう一本、出てこい……!」


 両手をかざしたマナトは、目線を湖面へ移して意識を集中した。


 湖面が盛り上がる。


 ――シュルルル。


 新たにもう一つ、3つ目の水流が伸びてきた。


 複数の水流の操作の練習だ。


 3つ目の水流を、8の字を描く2つの水流の軌道に乗せようとする。


 だが、3つ目に集中し過ぎて、逆に8の字を描いていた水流の軌道が変化してしまった。失敗。


 「もう一度……!」


 ――シュルル……。


 めげずにマナトは再び水流を発生。何度も繰り返し行った。


 また、マナトは他にも、水流のスピード強化や、テッポウウオの連写制度のアップなど、ジンとの戦いの際に課題と感じたあれこれ、考えうる限りの修練を行った。


 シュルルという、水流が空中を走る音が、しばらくの間、湖に聞こえ続けた。


 「フゥ……」


 ――ザパァアン……。


 水流の勢いが落ちて、そのまま湖に落ちて溶け込んだ。とりあえず、マナトは考えていた修練をひと通り済ませた。


 一旦、休憩。


 ――ヒュゥゥ。

 風が吹いた。涼しい。


 木々や湖のあるせいか、村にいるときよりも、気温が低かった。


 「よっと」


 湖のほとりの端にあった、日のよく当たる大きな岩に飛び乗った。


 「……んっ」


 マナトが座った岩には、先客がいた。


 手のひらサイズの小さなカメが、一匹、気持ちよさそうにひなたぼっこしていた。


 「隣、失礼します」


 カメにお辞儀し、マナトもあぐらをかいて座った。


 ――ニャッ。


 マナトを真似て、コスナも岩に飛び乗ってきた。


 ――ニャッ?


 コスナはカメに興味津々で、前肢で甲羅をぽんぽんと叩いた。カメは甲羅に隠れた。


 「こらこら、ひなたぼっこのジャマしちゃダメだよ」


 コスナを持ち上げ、あぐらをかいた足の上に乗せた。


 すると、カメは再び、顔を出した。


 ……どうすれば、ジンに勝つことができるだろうか。


 石の上で、マナトは考えていた。


 人間としては規格外の、圧倒的な強さを持つミトとラクト。


 その2人をして、また、能力者である自分も含めた上で、手も足も出なかったのが、ジンという存在だった。


 これまでに遭遇した、2体のジン。ジン=マリードと、ジン=グール。


 戦いの主導権は、どちらも、ジンにあった。


 グールのほうは、ケントやフィオナ商隊もいた分、戦い続けていたら実際はどうなるか分からなかったが、それでもグールが本気を出していなかったのは間違いなかった。


 マリードのほうに関しては、もはや、完全な敗北。


 途中から本気になったマリードに、水流を完璧に封じられ、手刀でミトとラクトが削られてゆくのを、ただ、見ていることしかできなかった。


 彼らと遭遇して、謎は深まるばかりだった。


 分かったことといえば、言葉が通じ、意思疎通もできるということくらい。


 ジンは、人間とはまた別の、知的生命体なのだろう。


 分かり合えるのであれば、分かり合いたい。マナトの思いだった。


 だが、何より、自分の大切な人を守り抜く力というのは、この世界では必須になってくる。

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