189 十の生命の扉の彫刻①/彫刻家、シュミット
その彫刻は、マナトと同じくらいの高さの、縦に長い白石に掘られていた。
魔法陣のような、幾何学的な模様が掘られている床の上に、扉が6つ、向かい合う形で立っている。
扉はどれも、上部分が丸くなっているアーチ型に統一されていた。
ただ、よく見ると、その6つの扉の模様はそれぞれ違っていて、また、背中に羽のついている幼い天使が、6つの扉の中の1つの、アーチの上にちょこんと座っていた。
そして、その天使の座っている扉の先には、階段が続いており、上っていくと、そこに扉が1つ。その扉の先にも、角度を変えて階段。さらに高く上ってゆくたびに、1つ、また1つ。
そして、階段の頂上に、最後の、10個目の扉があった。
「この彫刻に、興味があるのかい?」
ミトとマナトが彫刻を見ていると、横から声がした。
見ると、丸メガネをかけた、背の高い、金色長髪の男が立っていた。
「あっ、はい。すごい彫刻だと思いまして」
「君は?」
「キャラバンの村からやって来た、キャラバンのマナトです」
「僕はシュミット。そこの家に住んでる者だ。そして、この彫刻の製作者だよ」
そう言い、シュミットは微笑んだ。物腰柔らかで、とても話しやすい印象だ。
「お~い、ミト~マナト~!」
ラクトの声がした。
ミトが戻る。
「すみません、ちょっと、先に行っててもらっていいですか~?」
マナトは皆に言った。
「どこに行くのかな?」
シュミットが聞いてきた。
「あっ、交易品を、村へ納品しに来たんです」
「なるほど。それなら、村長のところだね」
すると、シュミットがケント達に向かって言った。
「皆さん!あとで、ここの彼はお送りしますよ!ちょっと、彼とお話させてください!」
ケント、ミト、ラクトが顔を合わせる。
「まあ、もう、村の中に入ってるしな」
「そうですね」
「分かった~!先に行ってるぞ~!」
3人とラクダ達が村の奥へと入ってゆくのを、マナトとシュミットは見送った。
「僕はいま、メロ共和国に依頼を受けて、十の生命の扉の彫刻を製作しているんだ」
シュミットが彫刻へと目線を戻しながら、話し始めた。
「アクス王国から取り寄せた、いくつかの文献をもとに、この彫刻をつくっている。……ちなみにこれはボツにしたものだけどね」
「あぁ、そうなんですね」
「試作品なんだよ」
「それでも、ものすごく上手いですね!もったいない……」
「君、もしかして能力者かな?」
「えっ」
マナトは驚いてシュミットを見た。
「どうして、分かるのですか?」
「あははっ!この彫刻を見てたからだよ!」
「えっ、どういうことですか?」
「この彫刻を見て足を止める人は、大体、能力者か、能力者になろうとした者。つまり、十の生命の扉というものと向き合っている者なんだよ」
「あぁ、なるほど~」
……マナの洞窟へ向かう途中で、長老が言ったこと、また、洞窟内で、人魚の主、そして、アクス王国での交易の際に出会った、ルナも。
マナトはそれぞれ、思い出していた。
「十の生命の扉って、いったい、なんなんですかね……」
「……その昔、生も死もなく、そのどちらもが溶け込んでいるような世界、すなわち、混沌だけが存在していたという」
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