290 マナト、賢者モード①/ホモ=バトレアンフォーシス

 ミトが一人で、盗賊3人を相手に戦っている。


 3人は槍を持ち、ダガーを持ったまま棒立ちするミトへ突きで攻撃を繰り出した。


 ――キィン!


 槍が飛ぶ。


 「くっ!」


 武器を失った盗賊が、後ずさりする。


 「あっ、いいですよ。槍、取ってきて」


 ミトが穏やかな口調で言った。


 「な、なめやがって!!」


 ……ミト、アクス王国での道中と同じことやってる。

 マナトは思った。


 落ちた槍を拾うと、盗賊が再びミトに襲いかかる。その度、ミトに槍を飛ばされていた。


 「ミト、また強くなったなぁ。それにしても、圧倒的すぎる……」


 ミトの戦いを見ながら、マナトは思った。


 人数でいえば、キャラバンの数は盗賊よりも少ない。ラクトとサーシャ、またミトの状況だけでなく、どこの場所もキャラバンのほうが少ない状況だ。


 加えて、盗賊はリーチの長い長剣や槍などで、こちらに有利と思われる武器で攻めてきていた。


 だが、そんな状況下でありながら、どこの場所も、ミトやラクトのように、キャラバンの中に非常に強い者が必ずいて、その者が中心となって、盗賊達を圧倒していた。


 《……マナト。残念じゃが、お主は、ミトのように強くはなれん》


 この世界に来て間もなく、マナの洞窟へと向かう途中、長老に言われた言葉を思い出した。


 当時も感覚的というか、なんとなく察していたが、マナトはいま、こうして落ち着いて、キャラバンと盗賊の戦いをほとんど客観的に見ることによって、ようやく理解した。


 長老は、あの時、本当の意味で、いや、物理的な意味で言っていた。長老は知っていたのだ。


 「……戦人いくさびと、か」

 マナトはつぶやいた。


 前にアクス王国での交易の際、フィオナが言っていた言葉だ。クルール地方にはいない人種で、その生息はラハムやムシュマの、別の地方と言っていた。


 何気なく聞いていたが、ここに来て、その意味がマナトにとって、とても大きく感じた。


 ……おそらく、ミトもラクトも、自分と違う人間なのだ。


 ホモ=サピエンス。


 それが、当時、マナトのいた世界を支配していた、人間の種族だ。無論、マナトも人種で言えば、ホモ=サピエンス。


 皆が皆、ホモ=サピエンスであったがゆえに、日常でその分類を意識することは、なかった。


 だが、このヤスリブでは、おそらく、違うのだろう。


 かつてフィオナが言っていた、戦人というのは、それは詰まるところ、ホモ=サピエンスとは、別の人種。


 ミトやラクトからの判断になるが、その人種は、見た目はサピエンスと同じだが、身体能力が、サピエンスより遥かに強い。


 戦人、強い、それ以外は、自分と同じ。


 ……ホモ=バトレアンフォーシス、とでも、呼べばいいだろうか。


 ミトやラクトは、マナトとは別の人種、ホモ=バトレアンフォーシスに属する人間であることを、今さらながら、マナトは理解した。



 ✳「ホモ=バトレアンフォーシス」は架空の人種名です。

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