501 決勝トーナメント/フィオナ×ナジーム

 フィオナはいつものような、胸当てと腰巻きだけのセクシーな装いでは、なかった。


 肩から腰回りまで、髪の毛の色と同じ、銀色に輝く甲冑の胴着を纏っている。


 足は、太ももあたりは小麦色の地肌が出ているが、膝より下は銀色のアーマーで包まれている。


 ちなみに、キャラバンは基本、軽装が圧倒的に多い。交易であちこちを移動する上で、甲冑などの鎧を着るのは、動きが鈍くなるし、ジャマでしかないためだ。


 しかし、このような対抗戦のように、強敵と戦うことが分かっている場合、当然ながら、甲冑を纏うこともあった。


 「か、かっこいい……!」

 「フィオナ隊長、ホント、ステキなんだけど……!」


 観衆の中、主に女性キャラバン達から、ため息のような声が漏れている。


 銀色の甲冑に身を包んだフィオナの姿は、勇敢な女性騎士そのものだった。


 ――ヒュッ、ヒュッ。


 フィオナが軽く、レイピアを振った。


 「……」


 ……前より少し、剣先が長くなってやがる。


 ナジームは気づいた。


 「新しいレイピアか」

 「ええ、そうよ。新調したの。まだちょっと、距離感がつかめなくてね」


 フィオナは言うと、レイピアの刃先を、ナジームに向けて差し出し、少し傾けて静止させた。


 戦いの儀礼であり、合図。


 これで、ナジームがサーベルで軽くレイピアに触れることで、戦いが、始まる。


 「……」


 ――シャキッ……。


 ナジームも、サーベルをゆっくりと、抜いた。


 ……おそらくフィオナが、フェンサロンの中で、一番危険な相手だ。ウテナよりも……!

 ナジームは思っていた。


 前回の戦いで、ウテナ不在、またオルハン途中退場の中、その圧倒的な強さをもって、フェンサロンを決勝トーナメントに推し進めたのが、このフィオナだった。


 「……」


 ナジームが、サーベルを前に差し出した。


 ――キンッ。


 サーベルがレイピアに軽く触れる。小さな、金属音が、戦いを告げる。


 ――わぁ~!!


 周りの歓声が後押しした。


 ――サッッ!


 ナジームとフィオナが、素早く下がった。


 お互い、構え直す。


 「……」


 ナジームが、フィオナの立つ位置を軸に、ゆっくり円を描きながら歩き始めた。


 初動のきっかけを、うかがう。


 「……」


 対するフィオナは、構えたまま、ナジームに身体を向けるのみで、動かない。


 ……誘っているのか?……いや、まだ早い。


 ナジームも無理に突っ込まない。引き続き、フィオナの周りで円を描く。


 「……」


 フィオナの周りを、ナジームが、ちょうど、一周した。


 「!」


 フィオナが動いた。


 ――シュッッ!


 レイピアの突き。前傾姿勢からさらに腰を曲げ踏み込んだ。


 ナジームの顔に、レイピアの刃先が迫る。


 寸前、ナジームのサーベルが動いた。


 ――カィンッ!


 レイピアの刃を、サーベルが横から撫でる。


 顔スレスレをレイピアの刃先が通り抜ける。


 ――ヒュォ!!


 その刃先が、ナジームのはるか後方まで伸びる。


 威嚇をも込められているであろうフィオナの強烈な一撃。


 ――うおぉ~!!


 刃を交わした両者に、観衆は沸いた。

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