626 宿屋、二階にて
サーシャと召し使いのハディーシャは階段を降り、宿屋二階までやって来た。
「おう、サーシャか」
「うぃっス」
二階まで降りて来たところで、ちょうど、一階から階段を上がってくるケントとリートと鉢合わせた。
「……ちょうどよかった」
「んっ?」
「なにがちょうどよかったんスか?」
「……ムハド隊長、どこにいるか分かる?」
「あぁ、それなら……」
リートは人差し指を下……一階に向けた。
「下で打ち合わせしてるっスよ。セラとか」
「……ありがとう」
「……んっ?」
ケントが首をかしげつつ、サーシャの後ろにいるハディーシャに言った。
「召し使いさん、どうした?」
「ぅほっ!?」
「なんか、そわそわというか、モゾモゾというか……」
「ホントっすね、急に……」
「は!?な、なんでもありませんわ!?ええ!なんでもありませんくてよ!?」
「い、いやでもなんか……」
「そう!最上階から階段ずっと降りてきて、ちょっと息が上がっておりますくとぇよ!?」
すっとんきょうな、うわずった声をあげたハディーシャに、若干、リートとケントは困惑しながら言った。
「お、おおぅ……」
「ま、まあ、元気なら、いいんだが……」
「……」
……ダメよ、笑っちゃダメ。
一切、口角を動かさずに、サーシャはこみ上げてくる笑いをかみ殺した。
「ちなみに、さっき少し、話してたっスよ」
リートがサーシャのほうを向いて言った。
「……私のことを?」
「ああ、そうだ」
ケントが言った。
「もしかしたら、やっぱり……」
「ちょっと!それ話がちが……!」
――サッ!
ケントが言いかけた言葉をハディーシャが被せるように言い……かけたところを、サーシャが右手で制した。
「……大丈夫、その確認で降りて来たから」
「お、おう」
「……ということは、あなた達も」
「ああ、そうだな」
ケントがうなずいた。
2人とも、真剣な目をしている。
「今夜から、戦いが始まる」
「……」
少し、ピリついた空気が流れる。
「……つ~わけで、」
と、そんな空気を和らげるように、リートが歩き出しながら言った。
「俺らは、ちょっと準備してくるっス~」
リートが後ろ姿にバイバイと手を振りながら、それにケントも続いて、2人は二階の廊下を歩いていった。
「サーシャさま……!」
ハディーシャが階段を一段おりて、立ちはだかるように振り向いてサーシャに言った。
「先ほども申しましたが……」
「この状況、あなたも分かるでしょ?」
「……」
「分かってる」
サーシャは微笑みながら、ハディーシャに言った。
「自分の命を第一に守るように、行動するから」
「……」
少し、沈黙。
「……分かりました」
ハディーシャは口を開いた。その表情は、諦めたような、決意したようにも見える。
「さっ、行きましょう」
「はい」
階段を降り、一階へ。
「あっ、あそこに」
丸いテーブルがいくつか置いてあるラウンジのようなスペースに、ムハドと数人がなにやら話しているのが見えた。
「おっ、サーシャ」
気づいたムハドが手を振った。
「……」
「……んぅ」
「ちょっと待った」
「!」
「ほ!?」
ムハドが2人に向かって右手をかざした。
「……」
ムハドの濃い茶色の瞳に、サーシャが映っている。
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