295 夜、サライにて②/マナトの奇行

 「!」

 「えっ!」

 「えぇ!?」


 サーシャが大きく目を見開いた。ニナと召し使いは、ラクトの発言に驚いて、口に手をあてている。


 「仕方ねえよ。わりとマナトって、ああいうところあるっていうか、」

 「ああいうところって……!?」

 「ま、マナトお兄ちゃん、そんな趣味が……!」

 「結構、押しが強いときがあるっていうか、」

 「押しが強い……!?」

 「ひゃぁ……!」


 ラクトがなにかを言う度、ニナと召し使いはその言葉尻から、興奮した様子で囁き合っている。


 「……」


 サーシャは無言だが、顔を見ると、頬と耳がものすごく赤くなっている。


 「一度言い出したら、意外と頑固なとこ、あんだよなぁ。俺も、アイツの考えてること、イマイチ分からないとき、あるぜ」

 「ち、ちなみに、お風呂内で、なにを……?」


 恐るおそるではあるが、とても興味津々といった表情で、召し使いがラクトに聞いた。


 「なにをって、別に、フツーに風呂入っただけだけど……浴槽が狭かったから、俺が浴槽に入ってるときは、マナトが身体洗って、マナトが浴槽に入ってるときは、俺が……そういえば、俺が身体洗ってるとき、ずっと、マナト、浴槽から俺の身体をジロジロ見て……」

 「いや~ん!!」


 ニナが黄色い声をあげた。


 「そんで、こっち向いて、とか、後ろ向いて、とか。あと、肩とか揉まれ……」


 ――ポトッ。


 サーシャが、持っていた筆を落とした。すでに顔全体が真っ赤になって、ぼぅっとしている。


 「さ、サーシャさま!!ダメです!!これ以上は刺激的過ぎますぅ!!」


 召し使いは叫ぶと、サーシャをほとんど担ぐように抱き起こし、ニナの手を掴むと、


 「ラクトさん!!ちょっと、急用がございますので、わたくし達、戻りますわ!!」


 自分達の宿泊スペースに、3人はドタドタしながら、回廊内に入っていった。


 「……なんだったんだ?いやてか、絵画が……」


 残されたラクダ達の絵画を、ラクトは眺めた。


     ※     ※     ※


 ……やはり、身体自体は、ホモ=サピエンスのそれと、さほど変わらなった。


 マナトはラクトの身体を風呂で見た後、宿泊スペースに儲けられた机に座って、筆を走らせていた。


 特段、ラクトは腹筋が割れている訳でもない。また、足の筋肉も、確認できない。


 身体自体も、全体的に硬くなく、柔らかい。


 ……だからこそ、やっぱり。


 ホモ=サピエンスの身体つきのそれと、さほど変わらないにも関わらず、あの強さ、反射神経、そして、スピード。


 建物の上から飛び降りても、なんてことない、強靭さ。


 戦人……ホモ=バトレアンフォーシス。


 マナトは書き記した。


 「……それと、」

 「お~い、マナト、いるか?」


 宿泊スペースの扉が開いた。


 「んっ……あっ!」


 ムハドが、立っていた。

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