633 サーシャとラクトとユスフ

 「!」


 サーシャはすばやくテーブルの上で書いていた紙を服のかくしにしまった。


 ……どなたかに見られると、まずい紙なのかしら?


 ハディーシャはそんなことを思いながら、視線をサーシャからマナト達へと向けた。


 「……あらっ?」


 見知ったキャラバンの村の面々に混じって、一人。


 「あの紫色の瞳のお方は……」

 「……」


 たしかサロン対抗戦で、負傷から復帰したラクトと交戦した相手だ。そして、ラクトをいいところまで追いつめている。


 ……なんで一緒にいらしゃるのかしら?


 「……あっ!」


 と、その紫色の男がこちら側を指さして声をあげた。


 「あの対抗戦の、決勝最終戦のお姉ちゃんやん!」

 「おう、サーシャじゃん」

 「お疲れさまです~」


 ラクトとミトも気づいて手を振った。その後ろにマナトとジェラードが別の宿利用客となにやら話している。


 「アンタ、惜しかったなぁ!」


 男とラクトがサーシャ達のもとにやって来るや否や、男はその紫色の瞳を輝かしてサーシャに言った。


 「オレ、ゼッタイアンタが勝つって思ってたんよ!明らかにアンタのほうが強かったし!」

 「……」

 「全体的に相手の姉ちゃんの攻撃すべてに対応してたし。てか、相手の姉ちゃんも異常に強かったけど、アンタの強さ、マジでヤバいで!」

 「……」

 「ダガーさばきもこれまで見てきた中で一番や。なにより体幹が人間やない。どの体制からでも攻撃に転じてるの見て、マジでゾッとしたで!」

 「……」


 ……このお方を、サーシャさまは警戒なされているようですわね。


 「あん?なんや自分、なんか俺についてんか?」


 ……えっ、このお方、サーシャさまの視線で察して……!?


 「いや、サーシャは基本的に無口なほうなんだよ、ユスフ」


 少し苦笑しながら、ラクトは男……ユスフに言った。


 「特にお前みたいなしゃべくり人間には、ぜんぜん口を挟んでこないぜ」

 「あぁ、なんやそういうことかいな。いやでも、アンタ、ホンマ強いなぁ……!サーシャっていうんやな。いやもう、今でもアンタの戦う姿を思い起こすと……」


 ユスフは自らの拳をグッと握りしめた。


 「めっちゃ、戦いたくなるねん!」

 「ウフフ……!」


 ハディーシャは思わず笑ってしまった。


 まったく、サーシャの視線に疑いを持っているわけではなかったようだ。そして、どこか男の子というか、岩石の村にもいそうな男の子感が滲み出ている。


 「な、なんや!なんかおかしいか!?」

 「ごめんなさい。なんていうか、男の子って感じがいたしまして……」

 「子ども扱い!?」

 「いや、お前マジで子どもだぜ、ユスフ」


 ラクトが口を挟んだ。


 「そもそも隊を抜け出して、俺たちと一緒に行動してる時点で、やってること、だいぶ子どもっぽいぞ」

 「いや、それは違うで」

 「えっ?」

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