98 帰還

 砂漠の中を歩く、4人のマント姿の男達と、10頭ほどのフタコブラクダ。そして、一匹のスナネコ。


 一行は着実に、一歩一歩、前へ進む。


 日は上がり、朝の赤オレンジの光は消えて、白くなった昼の日差しが、砂の世界に降り注いでいた。


 「見ろ!……キャラバンの村だ!」


 ラクトの指差す先、地平線の先に、石造りでできた住宅群が、姿を現した。


 「あぁ……」

 マナトがため息した。


 ……戻ってきたんだ。


 「おい、マナト。お前、泣くなよ?ぜったい、泣くんじゃねえぞ?」

 ラクトがマナトをひやかした。


 「よし!ミト!」


 ケントが、ミトを呼んだ。と同時に、最後方を歩いていた、一番荷を少なく積んでいたラクダを、繋いでいたロープから外した。


 「コイツで、先にキャラバンの村に戻って、帰還を知らせるんだ。そしたら、広場で受け入れの態勢を組んでいてくれる。ジンの出現のせいで、サライから早馬を出せなかったからな」

 「分かりました!」


 ミトがラクダに飛び乗る。コブの間に股がると、ぽんぽんと、ラクダの身体を叩いた。


 ラクダがゆっくりと走り出す。


 「先に、戻ってます!」


 ミトは言いつつ、先頭のラクダを追い越した。スピードに乗ったラクダは想像以上に速い。あっという間に遥か先へと走り去って行った。


 残された者達も、慌てることなく、前へ前へと、歩き続ける。


 この、ヤスリブという大地……この大地のほとんどは砂漠で、昼は猛烈な熱さ、夜は身を切られるような寒さと、ほとんどの生物が生きることが困難な、死の世界。


 しかし、長老も言っていたように、不思議とこのような厳しき世界においても、マナという不可思議なエネルギーによって、緑広がる土地が点在し、生命の営みが広がる。そこに人は村や街、王国などを築いた。


 そして、そんな点在する国を、サライを経由しながら遠征し、交易を行う行商人、キャラバン。


 危険も多く、また出会いも多かった。そして、その分、別れも。


 そして、そんな激動の日々を、ミト、ラクト、ケントの3人の同志と共に過ごした、この交易の旅路の軌跡。


 思い返すだけで、思い溢れる。


 ――ニャッ!


 スナネコが、荷の中に隠れた。


 キャラバンの村の、石で舗装された道に、手を振るミトと、数人の村の住人がいた。


 皆が駆け寄る。


 「おぉ!帰ってきたな!」

 「みんな無事か!何よりだ!」

 「お兄ちゃん達!おかえりなさい!」


 ……誰からも必要とされないと思っていた。それが……


 ――カン!カン!カン!


 村の大広場の、高台に設置されている鐘が賑やかに鳴った。


 「ケント商隊が帰還したぞ〜!」

 鐘を鳴らした者が、大声で言った。


 村中央の大広場に、帰還を聞きつけた多くの村人と、長老がいた。


 「うむ!ご苦労じゃった!」


 ケントが振り向く。


 「よくやったな!お前ら、村の誇りだぜ!!」


 歓喜に満ち溢れた顔で、ケントが3人に言った。


 「うぅ……」

 「マナト、お前、泣くなっつってんのに……」


 そう言うラクトの目にも、また、無言で笑顔のミトの目にも、光るものが見られた。


 それはまるで、夜に輝く星のように、美しい光だった。


 (マナト、帰還編 終わり)

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