147 砂煙

 朝。


 いつもより少し、日の光が早く宿屋に届いた。


 ケント商隊は手分けして、帰還への準備を進めていた。


 「よいしょっと」

 「その上に~ド~ン!」

 「ちょっとリートさん!積み木みたいに積まないで!バランス崩れる!」


 ラクトとリートの声が宿屋前に響く。


 ケント、ラクト、リートの3人は、交易品やら荷物やらの荷下ろしを行っていた。


 「ケント!」

 「んっ?」


 顔見知りの村人が、ケントに声をかけてきた。


 「帰るのか?」

 「ああ」

 「ちょっと、砂漠方面を見てみろ」


 村人が、砂漠方面を指差した。


 「あの舞い上がっている砂煙、分かるか?」


 指差すほうを見ると、砂漠に一部、もやがかかっているような箇所があった。


 「あぁ……あれが、例の砂煙か」

 「そうだ。馬やラクダでは、あんなに広い範囲で砂煙は起こらない」

 「確かにな」

 「このあたりでは最近見られなくなったが、ひと昔前、デザートランスコーピオンっていう獰猛種の生息が確認されていたんだ」

 「あのでっかい毒サソリか~」

 「あの砂煙、キャラバンの村の方面だろう?このまま帰るのは危険じゃないか?」

 「そうだな……」


 村人の言葉に、ケントは少し考えるように腕を組んだが、


 「うん、まあ、いっか!」


 すぐにケントは顔を上げた。


 「大丈夫なのか?」

 「今回は、な。遠回りしたくないんだよ。まだまだラクダが村にたくさんいて、どんどん交易していきたいんでな。それに……」


 ケントは言うと、ラクトと共に交易品を持って階段を下りてゆく、リートを見た。


 「あの人いるから、大丈夫だ」


 ケントの顔に、迷いはなかった。


 3人が交易品を宿屋から降ろしている間、ミトとマナトは宿屋を出て、ラクダ達の休むラクダ舎へと向かった。


 「フフフフフ~ン」


 ミトが鼻唄を歌っている。昨日の洞窟内で、クラシックコウモリが奏でていたものを真似ているようだ。


 「フフフ~ン」


 結局、クラシックコウモリの巣までで、洞窟は行き止まりだった。


 「ハマってるね、ミト」

 「いやぁ、耳に残っちゃって。フフ~ン」


 また、ピッケルなどの採掘道具も持っていかなかったため、コウモリ達の旋律の中、探索するだけして、3人は満足して来た道を戻り、洞窟を出たのだった。


 「みんな~、おはよ~」


 マナトは言いながら、ラクダ舎の扉を開けた。


 ラクダ舎は、国や村によって規模も構造も違うが、基本的には石造りの壁と屋根だけの、掘っ立て小屋のような簡単な造りをしているのがほとんどだった。


 鉱山の村にあるラクダ舎もその例に漏れることはないが、一つ一つのラクダ舎はそこそこ広く、10匹が一度に入れる大きさのある規模だった。


 「うん。みんな、もう起きてるよね」

 「帰るよ、みんな。フフフフ~ン」


 ケントらと合流する。ラクダ達に、交易品を取り付ける。


 皆、マントを羽織った。


 村長が、ケント商隊の横に立った。交易担当や村人も数人いる。


 「それでは」

 「くれぐれも、道中、お気をつけて……!」


 ケント商隊は、砂漠へと足を踏み入れた。


 まっすぐ、キャラバンの村目指して、商隊は進む。


 「……んっ、なんだ?」


 ラクトが、地平線の異変に気づいて、言った。


 「砂が舞い上がっているのか?」

 「うん、たぶんそうだね、フフ~ン」


 しばらく進むと、やはり、少し先に砂煙が舞い上がっているのが見えた。

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