507 赤い鮮血

 ――ジャキィィイン!!


 金切り音が鳴り響く。


 「!?」


 ――ザ、ザザ……!


 フィオナの明昇六弾あけのぼるむつのはじきをくらったナジームが、地面を転がるように受け身を取り、すぐに立ち上がる。


 ――うぉ~!!


 戦いを見守っていた観衆が、一気に盛り上がった。


 「やったぁ!!」

 「よし!!」


 ライラが万歳し、オルハンはガッツポーズした。


 「……くっ!」


 ……まだ、勝負はついてないわ!


 レイピアの手応えから、フィオナは察していた。


 「ふぅ……」


 ナジームが一呼吸置いて、口に加えていたサーベルを手に持った。


 「もしつけていなかったら、今ごろ負けていたな」


 ナジームを纏う白装束が、2ヶ所、破けている。そして、その白装束の内側から、銀色の光が反射している。


 ――バッ。


 光沢のある緑の布ベルトをほどき、ナジームが、白装束を脱ぎ捨てた。


 「な、なんですって!?」

 「あのヤロ……下にアーマー仕込んでやがった!」


 ライラとオルハンが、頭を抱えながら叫んだ。


 ――んん~!?


 観衆たちも、まだ勝負がついてないことに気づき、混乱した歓声に変わっていった。


 ナジームのつけているアーマーには、レイピアの刺突の痕跡が2つ、くっきりと刻まれている。


 しかし、その2発とも、その奥にある身体を、捉えてはいなかった。


 「俺のサロンの後輩らが、着ろ着ろとうるさかったのでな。しかし、結果的に、後輩たちの言うとおりにして、正解だったようだ」


 独り言のように言いながら、ナジームは身に付けているアーマーに手をやった。


 「いやはや、自分を過信しすぎるのは、よくないねぇ。しかも、一回戦目でもう明るみになってしまうとは。……もうこの手はつかえないな」


 ――ゴトッ。


 ナジームが、自ら、アーマーを外した。上は薄手の黒いインナー、下は七分ほどの、動きやすそうな白と紺のステテコパンツだけとなる。


 ターバンだけは、相変わらず深く被ったままで、その奥に見える半分だけ出ている目が、フィオナを見据えた。


 「さて……」


 ナジームがサーベルを構え、同時に、腰が下がる。


 ……来る!


 ――タァンッ!


 跳躍。ナジームがフィオナへと、一気に距離を詰めてきた。


 ――ヒュッッ!


 フィオナの刺突。


 「な……!」


 ナジームの残像に、レイピアの刃が手応えなく突き刺さる。


 ――ザザッ!


 すぐ横に、ナジーム。動きが先よりも数段、速くなっている。


 サーベルの縦振りの斬撃。避けられない。


 「くぅ……!!」


 ――ギッ!!


 レイピアが間に合う。


 しかし、


 ――パキィィン……!


 レイピアのやいばが、断ち切れた。


 一閃。


 ――ズァアア……!


 フィオナの肩から、赤い鮮血が、飛んだ。

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