582 オルハンの、吐露

 「水の鏡に映って……!」

 「ああ、そうだ。俺がウォーターアックスを振り切ってしまったのは、そういうことだ。……よっと」


 言いながら、寝転んでいたオルハンが寝台の上で上半身を起こして、あぐらをかいた。


 「オルハン先輩、どこか痛むんじゃ……!」


 ガストは心配になって言った。


 「問題ねえ、かな」


 オルハンは言いつつ、確認するように腕をゆっくり回した。


 「……まあ、多少、動かすと鈍く痛むところはあるが、動く分には問題ねえな」

 「よかった……」


 ガストも仲間たちも顔がほころんだ。オルハンには目立った負傷もなく、元気のようだ。


 「はぁ~」


 しかしオルハンはため息し、再びごろんと仰向けになった。


 「いやもう、あのまんま死んでしまえばよかったくらいだぜ。それくらいに辛い、負けることは」

 「先輩……」

 「ルナに、勝利の姿を見せられなかったんだからなぁ」

 「……」


 仰向けのまま、灰色の石の天井の先の、遠いところを見ていた。


 「……俺がキャラバンになったのが遅かったから、出会ったのは割と最近だ」


 オルハンは話し始めた。


 「公爵令嬢とかいう身分でありながら、それに甘んじてはいけないという、強い思いを持っていた。それに、意外と強くて関心した」

 「……」

 「自分の立場に、どこか自責のようなものを持っているようだった。俺からすれば、背負う必要があるのかというほどの自責を背負って、どこかはかなげで、愛しくて……」


 ……オルハン先輩は、バカだ。

 ガストは思っていた。


 「俺が先に水の能力者となって、その後すぐ、ルナもマナの神殿で儀式を受けた。だがルナは……」

 「……」

 「守ってあげたい、そう思うようになっていった。だがルナは……」


 ……聞いているこっちが、恥ずかしくなる。


 「……」


 天井を見上げたまま、オルハンは黙ってしまった。


 ……これが、オルハン先輩なのだ。


 この、むき出しの本心……だからこそ、ガスト自身、ここにいるみんな、オルハンのことが好きなのだ。


 「……お前ら?」


 オルハンは改めて起き上がっていた。ガストや周りを取り囲む仲間らを見渡している。


 「……その傷、血の確認でつけられた傷か」


 先ほどとは違う口調になっていた。


 そして皆の、腕や足についた包帯や傷跡を見ている。


 「あぁ、そうっすね」

 「そうか……」


 ガストは腕にはひとつだけだが、中には複数の箇所に包帯が巻かれている仲間もいる。


 「……」


 オルハンは少し黙った。考えを巡らせるように、上を向いたり、腕を組んだりしている。


 「先輩?」

 「……ジンは、お前らが思っている百倍は強いぜ」

 「……えっ!?」


 ガストも皆も、オルハンの言葉に絶句した。


 「お、オルハン先輩、もしかして、ジンと……!?」

 「ああ。……もう、隠していても、仕方がねえと思った。お前らがそんな状況なら」


 オルハンは、その場にいる一人ひとりに向けるように、それぞれの顔を見た。


 「この国には、ジン=シャイターンっつうジンが、潜伏している」

 「ジン=シャイターン……!」

 「それは、間違いねえ。お前らには、分かっておいてほしいから、言っておく。俺のサロンのリーダーの、フェンってヤツの考えだ」

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