598 打ち破り、その先へ

 ……その扉が、どんなに汚れていたって、構わない。


 倒れた石柱の衝撃とともに立ち込めた白煙の中で、ウテナは精神を研ぎ澄ました。


 先の一撃……石を打ち砕いた手応えはあったが、相手を捉えることは、できていない。


 「……」


 ――パァァ……。


 白煙の中に差し込む、テントの天井にぶら下がっているマナの照明から、差し込まれた光。


 まるで、あの時のような、光。


 ……生きるって決めた。


 「……」


 ――ス……。


 「!!」


 わずかな、かすかな白煙の動きを目の端で捉えたウテナが振り向く。


 「な……!」

 「うあああ!!!」


 ――シュッッ!!


 白煙を貫く、ウテナのナックルダスター。


 ――ガリィ……!!


 「くっ!」


 ダガーのやいばを削るような音。ナックルダスターが、とうとう、サーシャの持つダガーに刃こぼれを生む。


 ――ブンッッ!


 しかし次の瞬間にはもう、止められたダガーを作用点にして跳びあがったサーシャがまわし蹴りを放ってくる。


 ――バシッ!!


 「ぐっっ!!」


 両腕のクロスガードで、ウテナが防御した。


 ――ヒュッッ!


 「また……!」


 止められた足をまた軸にした、サーシャの弧を描くダガーの一閃。


 白煙を切り裂いてウテナに迫る。


 「くっ……!」


 ……攻撃が止まない!


 攻撃から次の攻撃へ……無差別攻撃のように見せかけながら、その動きは次の攻撃へと繋がりに繋がる。


 ……それでも、それでも!!


 心で、ぜったいに負けない。


 内に灯った光を、ぜったいに消してはいけない。


 みんなのために。


 そして、自分のために。


 ――コツッ!


 「!!」


 ――ヒュゥウウン……!!


 ウテナは身体を横に向けて、飛んできた石を回避した。


 先にウテナが繰り出したステージの破片をサーシャが蹴り飛ばしていた。


 ――タンッッ!


 すかさずサーシャが仕掛けてくる。


 ……お願い!!一瞬だけ!!


 横に傾いたウテナの身体がこわばる。奇跡を願う、ウテナの抵抗。


 ――フッッ……。


 「あ……!!」


 サーシャの姿が、ウテナの視界から消えた。


 「……ぁああああ!!!!」


 ウテナの咆哮。


 身体全体に血が激しく駆け巡る。肩から腕へ、手の先へ、腰から足へ。


 ダガーの、銀色のやいばの光が見えた。


 そして、サーシャの姿。


 ダガーの触れる感触。


 冷たい。それは、あの時の記憶。


 血に染まったダガー。


 赤く染まった足下。


 ……記憶と、今とが、重なり……。


 ――パリィィイイイン……!!


 「……あっ」


 ダガーのやいばが、砕ける。


 ――ピッ……!


 サーシャの頬に、その砕けた破片が触れる。


 薄いピンクの肌の上に、血。


 「……」


 サーシャの、唖然とした、顔。


 「ウテナぁぁあああ!!」


 ステージに上がってくる、ルナ。


 「ウテナ!!」


 そして、フィオナ、ライラ、オルハン、フェン、サロンのみんな。


 ――わぁぁああああああ……!!!


 鳴り響く歓声。


 「うぁああ……!!」


 そして、ステージ上。笑顔のまま涙を流したルナが、ウテナに抱きついた。

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