451 イヴンとサーシャ、アクス王国とメネシス家

 書斎中央の、大きな作業机のイスに、イヴンは座った。


 イヴンが大柄な体格をしているため、むしろ、座ってくれたほうが、マナトもサーシャも、見上げずに済んだ。


 「ふむ、異世界からの転移者とは……」


 まだ、マナトについて、イヴンは関心があるようだった。


 「君、ターバンを取りたまえ」

 「はい」


 イヴンに促され、マナトはターバンを取った。


 「……」


 ……いやだから、目力が、すごいんですが……。


 「非常に興味深い。長生きはするものよ」

 「……」


 ……長老と同じこと言ってらっしゃる。


 「詳しくお主の話も聞きたいが、いまはこの、絵画にまつわることについてだ。……サーシャ」

 「……はい」


 すると、作業机の引き出しから、イヴンは一枚の紙を取り出して、机の上に置いた。


 「今回の、絵画の発注書で、岩石の村に送ったのと同じものだ。お主はさぞ驚いたことだろう。発注内容が、お主の記憶の中の情景とそっくりだったはずだ」


 イヴンの言葉に、サーシャがうなずいた。


 「なぜなら、お主がまだ言葉も話さぬ幼い頃に、一度、わしに描いてみせていたからな」

 「!」

 「やはり、それも忘れておったか」


 イヴンは発注書を引き出しにしまった。


 「お主の両親とは親交が深かったほうでな。わしはその頃、すでにメロの公爵だったが、アクス王国に寄った際は、必ず伺うようにしていたのだが、お主は不思議な絵を描くと、噂になっておったのだ」

 「……そう、だったのですか」

 「……」


 と、イヴンが、サーシャを見つめる。


 「……お主、アクス王国での記憶は、どれほど残っておるのだ?」

 「……ほとんど」


 サーシャは口をつぐんだ。顔色が、やはり、よくない。


 ……そういえば、アクス王国の名前を出してはいけないって、岩石の村でサーシャさんに会う前に、ニナさんに言われたような。


 「残っていない、か。まあ、仕方あるまい。無意識に忘れようとも、していたのだろう」

 「……」

 「おそらくお主がこのヤスリブで生を受けたあの頃より、少し以前から……アクス王国にいるメネシスの王家は、腐敗してしまっていたからな」


 イヴンは、坦々と言葉を次いだ。


 「王宮内は権力争いという名の砂嵐が吹き荒れ、つき従う家臣は媚びへつらって、それを諌める者もいなくなった」


 ……なんか、よくある話だなぁ。


 アクス王国でジン=マリードを尾行しているとき、歓楽街で見たヤク売りや、王宮商人と一緒にいた、王族っぽい人たちを、マナトはなんとなく思い出していた。


 「お主の両親も、その腐敗の渦中で、……まあ、残念だったな」


 ……えっ、マジすか。


 「アクス王国が今もクルールで一番の大国であり続けているのは、王宮以外の各機関がしっかりしているからに他ならぬ」

 「……私は、」


 サーシャが口を開いた。

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