91 別れ

     ※     ※     ※


 「……マナト」


 ミトの声が聞こえた。


 「マナト。おい、マナト……!」


 ラクトの声も聞こえてきた。


 身体がゆすられている。


 「……う、うん……?」

 「起きろ、マナト」

 「はっ!」


 マナトは目覚めた。ガバッと身体を起こすと、そこはケント商隊の宿泊スペース内、石の壁で仕切られた個室内のベッドの上だった。


 「ジンは!?」

 「ジン?おいおい、なに言ってんだよ、お前」

 「ここ、サライの中だよ?マナト」


 ミトとラクトが苦笑しながら、顔を見合わせている。


 「いや、中庭に、ジン=マリードも、ジン=グールもいて、それで……」

 「いやいや、勘弁してよ、マナト」

 「アレだろ?どうせ、夢でも見ていたんだろ」

 「フフっ、そうだね。ずっと、机に向かって、ジンのこと、書いてたし」

 「夢……」


 ……いつからだ?少なくても、自分の足で個室のベッドに戻った記憶は、ない。


 ただ、ミトとラクトの雰囲気を見ている限り、どうやら昨夜の出来事というのは、サライ内では認知されていないようだ。


 「てゆうか、マナトがそんな感じってことは……」


 ラクトが残念そうに言うと、ミトも困ったように笑った。


 「ここの3人、全員、寝落ちしてしまったってことだね、あはは……」

 「……あっ、ケントさんと、フィオナさん?」


 マナトも2人の言っていることを察した。


 「ああ。起きてようって頑張ったんだが、結局、俺も、ミトも、ぐっすり、眠っちまった……」

 「それで、マナトはもしかしたら、起きててくれてたのかなって思ったんだけど……」

 「フフっ、なるほど」

 「ウテナに、なんか文句とか言われないかなぁ……」

 「ねっ……ちょっと、外に出づらいよね」


 ラクトもミトも、ウテナ達に会うのをためらっているようだった。


 「でもまあ、仕方ないんじゃない?」


 マナトは起き上がって、寝袋を畳んだ。


 「ウテナ達に会ったら、素直に謝ろうよ」

 「ああ」

 「だね」


 3人は外に出た。


 横斜めの日差しが、サライの中庭を照らし、中央には焼けきって炭となった焚き火の後が残っていた。


 日の光りを浴びたラクダ達が、まるで植物が太陽の光を浴びて花びらを開くように、地面に着いていた首を上げ始め、濃く長いまつ毛の奥の、大きな目を開いた。


 「おはよう、みん……あれ?」


 ラクダ達の数が、減っている。フィオナ商隊のラクダ達の姿が、なかった。


 「お〜う、お前ら、起きてたか……んん〜!」


 ケントが、自分達の宿泊スペースから出てきて、大きく背伸びをした。


 「おはようございます、ケントさん。あの、フィオナ商隊のラクダ達が……」

 「んっ、そうか」


 マナトの言葉を聞くと、ケントは特に驚きもせず、3人に向かって言った。


 「フィオナ商隊は、早朝に、ここを去った」

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