第225話 ざんのいお

オシヨロフの南の岬の外海側、先端に聳える兜岩を回り込んだ崖の先に、陸からは近づけない入り江がいくつかある。

垂壁に囲まれ、陸地に深く切れ込んだ海は、入り江というよりも縦坑の底に現れた地中湖のような雰囲気だ。


オシヨロフ湾同様、流氷は入り江の奥には入ってこれず、ささやかな広さながら、海底まで見える澄んだ海面が開けていた。

さすがにささやかすぎて海牛はいないが、それだけ一層静かで閑散とした入り江の奥で、

彼女たちはただ水中に佇み沖を眺めていたり、優雅な気だるげな仕種で水と戯れていたり、つまり何もせず暇を持て余しているように見えた。


いつものように、アマリリスは音を立てないように崖の縁に近づき、そっと腰をおろした。

本当はそこまで慎重にしなくてもいいのかもしれない。

彼女たちがアマリリスに気づいているのは明らかだったのだ。

気づいた上で、害のない相手だと判断したのだろうか、

時おり思い出したように振り返ってこちらを見るが、今では逃げようとはしなかった。


実際、害意のあるなしとは関係なく、足元から落ち込む断崖に阻まれ、アマリリスが彼女たちに手出しすることは不可能だった。

逆に(あまり想像しにくいことだが)この2頭の魔族の側からアマリリスに襲いかかってくるような危険からも護られていると言えた。


そんな距離感を保ったまま、アマリリスは時々ここにやって来ては、2頭の様子を飽きもせず眺めていった。

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