第208話 渇きの雪

叫びだしそうになりながら、アマリリスは目を覚ました。

呼吸は熱く荒かった。

額にはじっとりと汗をかいていた。


アマロックが見ている。

気まずくなって、目を逸らした。


「・・・何か、、ヘンなこと言わなかった?」


「いいや。

特に何も聞いていないよ。」


深呼吸して息を整えた。

そんなつもりはなかったのだが、恨みがましいため息のようになった。


寝ても寝ても、目が覚めれば外は相変わらずの吹雪。

また眠るしかない。

そのうち空腹で目覚める。怖い夢を見て目覚める。

それでも、寝る以外にすることがない。


いよいよ、深呼吸しても息苦しさが収まらなくなってきた。

出入口が雪に埋もれて、酸欠になってるんじゃないだろうか?


「大丈夫。

気のせいだよ。さぁ、寝た寝た」


無理。

おなか空いた。

喉が渇いた。そうだ、水が飲みたい


アマリリスは雪を掴み取ろうと、毛皮外套のすき間から手を伸ばした。

アマロックがそれを諌める。


「ダメだよ、雪を食べちゃ。」


「やだ。食べたい」


「いい子だから。」


「ヤなの!

食べるったら食べる!!!」


アマロックの唇で口を塞がれた。

強引な、それでいて全身の力が溶けて流れ出てゆくような優しいキス。

頭の奥が痺れる。

この流れじゃ、押し切られる。。。


『やめ、、てよっっ』


渾身の抵抗で、アマロックの体を押しやった。

お互いの体が動いて弾み、どんな風に接しているかが改めて思い起こされて、何もできなくなった。

アマロックは黙ってアマリリスの髪を撫でていた。


「一体いつまで続くの、この吹雪。。。」


思わず、涙声になった。

寝ても寝ても、吹雪、吹雪、、、

もう何日、こうして雪の穴に閉じ込められているのだろう。


「まだ二日目だよ。

大丈夫、明日には止む。


いい子だね、喉が渇いたぐらいで死にゃしない。

君はまだ耐えられるよ。」


優しい。

魔族のくせに、

人の心なんてまるで分かっていない獣なのに。


声を震わせていたつかえがため息と共に抜けてゆき、ひりひりするような喉の渇きも幾分和らいだように思えた。

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