第207話 星の宮
夢を見ていた。
自分でこれは夢だと思いながら見ている類の夢だった。
アマリリスは一人、夜空の下を歩いていた。
石畳の小路に面して、石積みの低い壁で仕切られた庭園がある。
入り口の木戸の上に、ジャスミンの花が白い霞のアーチとなってかかり、石壁にも、クレマチスやつるバラが絡みつき、美しい花を咲かせている。
木戸を押して中に入ると、懐しい空気があった。
シャリンバイやくちなしの植え込みが小路を縁取り、花壇にもとりどりの花が植えられている。
睡蓮の葉を浮かべた大きな水瓶の中では赤い金魚が泳いでいる。
敷地の中を小川が流れているらしく、どこからか水音がする。
至るところに置かれた鉢植えも、チランドセア、クッカバラと、寒冷地のトワトワトでは見かけないものばかりだ。
ここは、星を祀るお宮なのだ。
壮麗でもなく厳かでもない感じからして、大きく有名な星ではなく、名前もないような小さな星の宮だろう。
幼い子どもの星なのかもしれない。
今は不在にしているらしく、この小さな庭園に、他に誰かいる気配はなかった。
見上げれば、糸杉の黒い影が闇空に向かって延びている。
闇空は、宇宙創成のときに放たれた光の残響を映したように、ぼんやりと明りを帯びている。
とても懐しく、また美しい庭園なのに、アマリリスは落ち着かなかった。
彼女は知っているのだ。
この庭園のどこかに、殺害された人の死体が埋まっていることを。
何故?
他でもない、殺したのはアマリリスだからだ。
ヒスイカズラの花の青いアーク灯や、モクレンの花の白灯が仄暗く照らす園路を辿り、水路に置かれた踏み石を渡った。
羊歯の葉が茂る植え込みの前で、アマリリスは足を止めた。
茂みの奥で、座禅草がいくつか花を咲かせていた。
熱を帯びる花は、ゆらゆらと湯気を立て、花序には血のように赤い光をともしている。
その光に照らされた、羊歯の根元を、アマリリスはじっと見つめた。
羊歯の朽ちた茎のように見えるものは、実は土で覆いきれずに地表に露出した、死者の指ではないのか。。。
その考えから離れられなくなって、アマリリスはますます一心に見つめた。
しかしいくら凝視しても、そのどちらとも判別をつけることができなかった。
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