第209話 長く苦しい冬

「毎年こんななの?

こんなに食べ物が何もなくて、毎日吹雪で。。?」


(喋ると喉が渇く一方だし、)もう泣き言は言うまいと思うものの、つい口に出た。

アマロックが優しくしてくれるのが心地よいのと、率直に、これほどの窮乏を毎年乗り越えていることに、驚嘆せずにいられなかったのだ。


「そうだねぇ、

ただ今年は特によく降るし荒れる。

困ったものだよ。」


「そうなの!?」


そういう発想はなかった。

とにかく苛酷な自然だと思ったが、例年よりも厳しい冬だということか。


「例年っていう年は知らないけどね。

今年より多く降る年も少ない年もある。

冬が早い年、春が早い年、、色々だ。」


そういえば、秋、山から戻ってきた時に言ってた。


”今年は冬が早くなりそうだ”


あの時からすでに、アマロックには分かっていたのだろう。

いつやむとも知れない吹雪も、厳しい窮乏も。


なのに、破滅が待っていてもおかしくないその未来に、平然と向かい合い、今その時だけを生きている。

あたしにはとても無理だ。

明日には晴れる、って教えてもらわなかったら、今日一晩とても耐えられない気がする。


この違いは一体何なのだろう。

野に生きる精神の強靭さ?

群を負って立つ者の矜持?

きっと違う、それは資質とか才能じゃなくて、一種の欠陥なのだ。


苦難や窮乏に恐怖する心、肉親の死を悼む心の欠如、

人を愛する心、涙を流す魂の欠如。

グナチアの欠陥種で、母から子に与えられる愛情の不足が、子を生き延びさせることに繋がったように、

内面に余計な重荷を持たないことが、彼らの自由と強さなのだ。


魔族はそれでいい。

でもなぜ人間は、それらの、一見すると弱点にしか見えないものを持つことを選んだのだろう?

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