第285話 これ本当にあたし自身の

オロクシュマに着いても、ファーベルのテンションは絶好調で、アマロックの手を引いて真っ先に船を降り、岸壁の上で飛び跳ねんばかりにはしゃいでいる。


「アマリリス! ヘリアン君、早く早く!」


のそのそと船を降りる二人に呼びかけて、足取りも軽く街の方へ歩いてゆく。

不覚にもアマリリスは笑ってしまった。

まったく、こういう時のファーベルにとって、アマロックは大きな愛玩犬みたいだ。



それにしても、魔族が一体どうやって人間の町に入るつもりなんだろう?

オロクシュマに着いたら変装でもするのかと思っていたら、アマロックは何とそのままの格好で街に入っていった。

周囲には地元の漁師や、内地に向かう連絡船の船員や乗客などの人間がいた。

クロユリのような紫がかった髪も、とがった耳も、金色の瞳も明らかに人間のものではないのに、だれもそれを気に留めるでもない。


そうか、幻力マーヤー

周囲にいる者の視覚をあざむいて、人間に見せかけているのだろうか?

いや、、、あたしにはこうしていつもの姿のままに見えるということは、視覚をあざむいているというよりも、

もっと高次の意識の働き、目に映ったものが何かを認知する機能のほうを麻痺させるとかして、自分を魔族だと気づけないようにしているのだろう。


どちらにせよ、魔族であることを隠すという効果に変わりはないのだが、アマリリスはやけにその区別を強く意識した。

おそらく誰も気づいていないだけで、アマロックが人間の意識に働きかけて何らかの操作を行っていることは、他にもたくさんあるに違いない。


アマリリスは急に不安になってきた。

あたしがこうして考えること、これは本当にあたし自身の意志なのだろうか?

それとも既にアマロックに操られていて、彼の意志に沿って思考を働かせているだけ?


それどころか、ひょっとしてアマロックの存在そのものが、幻力マーヤーの作り出した幻なんてことは。。。


どこをどう考えてもそんなことありっこない、

ファーベルと腕を組んで前を歩くアマロックは間違いなくそこに存在しているのに、アマリリスはその奇妙な妄想をなかなか追い払うことができなかった。

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