第284話 あんた妬いてんでしょ?
天を覆う灰白色の雲に、山々にたなびく層状の霞。
けれど遠い雲の隙間からは薄日も差し、年中曇り空、冷たい雨と霧のトワトワトでは、まずまずの天候と言えるかもしれない。
鉛色の海面を押し分けて、うすぼけた緑色のボートが進む。
船の先端、けっこうな高さで海面の上に張り出した船首で、ファーベルがアマロックに背後から抱えられ、飛ぶように迫ってくる海原に向かって両腕を大きく広げ、何やら叫んでいる。
その後方で、アマリリスとヘリアンサスは朝食のサンドイッチをかじり、アマリリスは自分が食べるよりももっぱら、
群がってくる海鳥にパンくずをちぎって投げ与えるのに執心していた。
『ったく、何であいつが。』
ヘリアンサスがサンドイッチを咀嚼しながら毒づいた。
オロクシュマ・トワトワトへの外出に、予想外にもアマロックが同行することになったことが不満なのだ。
小声に加えてウィスタリア語なのは、万が一にもファーベルに聞かれないためだったが、
結果的にそれは、この場ではアマリリスだけに理解可能な問いかけでもあった。
そういえばヘリアンはアマロックが嫌いなんだっけ。
でも何でだろ?
好かれる理由はどこにもないが、逆に嫌われるような接点も、、、あ。
アマロックに大事そうに
ニヤニヤしてヘリアンサスを見つめた。
視線を察して、落ち着かない様子でヘリアンサスは姉を見返した。
『はっはぁーん、さては、、、』
『・・・何。何さ?』
『ヘリアンサスくん、おねーちゃんが教えてあげる!それはねっ⭐
シーット!
ってやだ品のないこと言っちゃった♥
違うの、”Shit!”じゃないぞ⭐
S・H・I・T・T・O、
”嫉妬!!
プフゥッww、あんた妬いてんでしょが、アマロックに、、』
『ッ!!
・・・・・・んなわけないでしょ!!
なに言っちゃってんですかッ、何でぼくがぁーー!』
意地でも最後まで言わせまい、なんなら力ずくでアマリリスの口を塞ぎかねない勢いの
その間も船は、広大なトワトワトの空に一筋の煙の帯を引きながら、薄日の射す方角へと進んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます