第283話 夜空を飛び交う、光になって

そこからあとは、例によってずうずうしく何の脈絡もなく、それでいてあがらいがたい流れでキスに持っていかれた、というわけか。



去年のワタリ、アマロックがいなかった2ヶ月の記憶が、胸を締めつけるような心細さとなってよみがえるいっぽう、

こうして会えるのもあと少しなのだと思うと、その愛しさはあふれんばかりだった。

アマロックがかなでる笛の音は、そんな愛のメロディでもあった。


旋律の残響に、また胸に渦巻く鮮烈な色彩に翻弄ほんろうされて、アマリリスは自分の心の所在すら見失ってしまったようだった。

そしてアマロックの言葉に、その意味も理解しないまま、ただうんうんと頷いていた。


”オロクシュマ・トワトワト”


そういえば先週あたり誰かが、来週街に行くって言ってたような。。。

つまり今週か。


今の彼女にとって、魔族が自分を誘って人間の街に行こうとすることの奇妙さなど、どうでもいいことだった。

仮にアマロックが、光も射さないような深い海の底に行こうと提案してきたとしても、何の躊躇もなくついて行ったことだろう。


気づけば――キスしている間もずっとそうだったのだろうか、アマロックの上衣ルパシカの袖を握り締めていた。

それは、アマロックを引き寄せようと、あるいはアマロックに寄り添おうとする仕草のようでいて、実際はどちらとも踏み切れず、

アマリリスはその空疎な繊維の束を、ただ、やけにぎゅっと握り続けていた。

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