あの山の向こう#2日目

第105話 明けない夜

霧の奥から青暗い光がにじみ、夜明けを告げていた。


ツバメオモトの葉に、針の頭くらいの朝露の粒が点る。

見ていても気付かないぐらいの、ゆっくりした速さで、露の玉は大きくなっていって、不意に動き始め、葉の縁に向かって滑り落ちて行く。


アマリリスはその様子を、瞬きすら忘れてしまったような、よどんだ瞳で見ていた。



霧の中からザクザクと足音がして、黒い影が近づいてくる。


アマロックか。


他の魔族か。

野生の獣か。


「おはよう。

朝飯にしようか。」


。。。アマロックだった。


それがわかっても、もはや大してホッとした感覚もなかった。


アマロックはカモシカの肢らしいものをぶら下げていた。

促されている感じがして、アマリリスは機械的に立ち上がった。


アマロックの金色の目が、じっとアマリリスを見る。

しかしアマリリスは視線を地面に落とし、目を合わせようとしなかった。



アマロックの左手が近づいてきて、指先が額に触れた。


その指が、そのまま頭蓋を突き抜け、頭の中にずぶりと入り込んでくるような感覚がして、

アマリリスはかくんと膝が抜け、その場にへたり込んでしまった。


「どうした、大丈夫?」


アマロックが笑いながら手を差し伸べた。

アマリリスはその手には応じず、自力でよろよろと立ち上がった。


「焼くんなら・・・火を起こさなきゃ。

いい?」


「もちろん。」


アマリリスは老婆のような動作で、朝食の準備に取りかかった。


夜が明け、朝が訪れようとしているのが実感なく、

一睡もできないまま、この世とあの世の境を行き来していたかのような、夜の続きにいる気がした。

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