第169話 あやかしの子#1

2時間近くに及んだ夕食の後、クリプトメリアは仕事の続きがある、と言って実験棟に引き上げて行った。

後半はアルコールが入っていたし、多分そのまま寝てしまうんだろう。

冬場(に限らず、ほとんど一年中)実験棟の応接セットが、事実上の彼の寝室になっていた。


外は吹雪になり、だんだん激しくなってくるようだった。


「アマロックもたまには人間のベッドで寝ていったら?

暖かいわよ。」


「あ、それいい!」


ファーベルは手を叩いて喜んだ。

ヘリアンサスは露骨にならない程度に嫌な顔をした。

アマロックがそれを気にするわけもない。


「そうだねぇ。

じゃあ、ご相伴にあずかるとしようか。」


「何よそれ。」


その夜、ペチカの上の寝床は人間と魔物の子どもたちで一杯になった。

大地を揺るがす吹雪が、海に森に、その咆哮を轟かせ、すべてのものを凍えさせるような嵐の晩。


そのなかで、岩蔭にひっそりと建つこの建物の、この狭いスペースは、

分厚い凝灰岩を通して伝わって来るとろ火の熱と、4人の体温で、ぽかぽかと暖かかった。


「こんな夜に、オオカミ達はどうしてるんだろ。

可哀想だなぁ。」


アマリリスは小さくつぶやいた。


「森の中には、意外と暖かいところがたくさんあるんだよ。

何も吹きさらしの原っぱに立ってる必要はないんだ。

それにあの毛皮だしね。」


「そう・・・よかった。」


幸せな気分のまま、アマリリスはすぐに眠りに落ちた。



眼が覚めると、吹雪は止み、しかし雪はまだしんしんと降り続いていた。

ヘリアンサスと、ファーベルはまだ眠っている。


アマロックは?

そう思って寝がえりを打とうとしたが、体が動かない。

見ると、アマロックが彼女の胴に腕を巻き付け、胸の二つの膨らみの間に、顔を埋めるようにして眠っていた。


「アマロック・・・」

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