第170話 あやかしの子#2

「乙女のふくよかな胸に頬を寄せて眠る、あやかしの子・・・」


クリプトメリア博士が、見ているだけで胸が悪くなるような量のジャムを落した紅茶を、フォークの柄でかき回しながらつぶやいた。


「ふむ。美しいじゃないか。

アンブロシアの古詩のようだ。」


「そうでしょうか?。。。」


「ホント、ずうずうしいったら。」


ファーベルが珍しく、アマロックを睨みつけた。


「ふくよかと呼ぶなら、もう少しボリュームがあったほうがよかった。

まぁ、枕には悪くなかったよ。」


「アマロック!!」


アマリリスが真っ赤になって怒鳴った。


「まぁ、良いじゃないか。

ヒトの乳房が膨らみを持つのは、異性に対して自分の魅力をアピールする目的でしかない。

しかしそこにいるけだもののオスは、バーリシュナのそれが曲がりなりにも気に入っているんだ。

これで二人が結ばれれば、何の問題もないだろう。」


「そういう問題じゃありませんっ!」


アマリリスはぴしゃりと言い切ってから、


「そうなんですか?」


「そうさな。

倫理面はともかく、生物学的に、人間と魔族の交配を阻害する理由は特にない。

ただし・・・」


「そうじゃなくて。」


「む?・・・ああ、そのことか。

そういう説がある、という話だがね。

直立歩行の結果、生殖器自体での性的アピールの

難しくなった人間のメスは、

かわりに、向かい合った時に確実にオスの視野にはいる上半身に、誘引力の発信器を備えさせるような適合の道を進んだ、と。」


「へぇー。

おっぱいをあげるから大きくなるんだと思ってました。」


アマリリスは両手で自分の乳房の重みを量りながら言った。


「確かに子供が出来ると、乳腺の発達によって大きくなるがね、

第二次性徴期に肥大するのは別の話だ。

それだけが理由だったら、きみはまだ子供もおらんのに、今から大きくしても仕方ないだろう。」


「それはそうですねぇ。」


三人の会話に赤面しながら、ヘリアンサスとファーベルは黙ってお茶をすすっていた。

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