第168話 辺境の一家
ペチカの熱で温まり、体がほぐれてきた。
アマリリスは、掌を前に指を組んで大きく伸びをし、ソファーの背にもたれた。
肘に頭を載せると、ちょうどアマロックと目が合った。
秋、二人で奥地に出掛けた時のことを思いだし、少し穏やかな気持ちになって微笑んだ。
「しばらくぶりじゃない?
元気にしてた?」
「おかげさまでね。」
「サンスポットは?」
「まぁ、どうにかこうにか生きてるよ。
会いに来たらどうだ。」
「行きたいけどさー、雪すごいんだもん。
すぐ吹雪くし。」
「そうだな。
その方がいいんだろうな。」
玄関からクリプトメリアが入ってきた。
神妙な顔でアマロックを
外からは、ヘリアンサスとファーベルが、わいわい賑やかに話しているのがかすかに聞こえる。
いつの間にか、雪が降りはじめていた。
「そういえばさっきはごめんね。
何かヘリアン、感じ悪くて。」
「そうだったっけか。
いい弟じゃないか、大事にするといい。」
「そう、、だね、
お互いにね。。。
ってか意外! アマロックがそんなこと言うの」
ぽつぽつと途切れがちに話をしているうちに、外でひときわ高い歓声があがり、
二人がどかどかと家の中に入ってくる物音がした。
台所でぎこぎこばったん、井戸のポンプを動かし、またやかましい歓声と、ファーベルの拍手。
「何やってんだろね? あの子たち。」
「さぁね。
水遊びじゃないか。」
満足そうな笑顔の二人が、居間に入ってきた。
ヘリアンサスの額には汗の玉が浮かび、ファーベルの頬はいつもより一層真っ赤だ。
「ホント助かったよー、ありがとうヘリアン。」
「早く言ってくれればよかったのに、大変だったでしょ。
ったく、誰かさんのお陰でとんだ大仕事だよ」
ヘリアンと楽しそうに話すファーベルを、目を細めて(アマリリスにはそう思えた)見つめているアマロックを見て、思った。
あたしが、ヘリアンサスに幸せであってほしいと思うのと同じ気持ちで、この魔族も、彼の仮の妹の幸せを願い、愛しているのかもしれない。
「お待たせ、アマロック。
あーもうこんな時間だ。
晩ゴハン食べてくでしょ?お茶飲んで待ってて。
ヘリアン君、手伝ってくれる?」
「おう、任せとけ。」
ちらっとアマロックの方を見たヘリアンの目には、もうさっきのような棘々しさはなく、
せいぜい、気まずそうな戸惑いの色が残っているだけだった。
さんざん待たされたその日の夕食は、珍しくクリプトメリアも実験棟から出てきて、賑やかな食卓になった。
心なしか、クリプトメリアもいつもよりおしゃべりで、特にヘリアンサスにしきりに話しかけていた。
臨海実験所で、ファーベルもクリプトメリアもいつも自分の仕事に忙しく、アマリリスは出歩いてばかりと、とかく放置されがちな彼だが、今日は団欒の中心にいて、実に楽しそうだった。
その様子を、アマリリスは、隣のアマロックと特に話をするでもなく、温かな気持ちで見守っていた。
文明社会から辺境に追いやられた父娘と、漂流してきた難民の姉弟と、荒野の人狼が、一堂に会して歓談したのはこれが初めてだったかもしれない。
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