第364話 利害の一致

緩やかに下る砂礫の谷の先に、ようやく出発地のハイマツの茂る野が見えてきた。


アマロックなんか探しに行っている間に、サンスポットたちがいなくなっていたらどうしよう、、

と内心気が気ではなかったが、出かけるときにアマリリスが見返した丘のあたりに移動して、彼女を出迎えるように佇んでいる彼らの姿を見てホッとした。


しかしアマリリスを乗せた古代サイが丘を下り、彼らの間を通り過ぎていっても、オオカミたちは集まってくるでもなく、異世界からやってきた巨獣の一行に対し、まるで関心を払わなかった。

マフタルが古代サイを停めるのを待って、アマリリスはため息をつきながらその背から降りた。


さて、これからどうしよう。


食べ物は、地リスやライチョウが豊富にいるので当面困らないが、いつまでもそうしているわけにもゆかない。

山の西側を行ったオシヨロフのアカシカの群れがどうなったのか、わからないままだし、生き延びているなら、彼らとの距離はどんどん開いていっていることになる。

こうして、期待の出来ないアマロックの帰りを待っている間にも。


というか、、アマロックはいなくなってしまったのに、

アフロジオンや、サンスポット、ベガにデネブにアルタイルは、どうしてあたしの側に留まってくれているのだろう?


臨海実験所の百科事典によれば、普通、オオカミの群は高位の雄と雌がつがいになり、群のメンバーを従えるのだということだった。

だとするとサンスポットやアフロジオンから見て、あたしは今や「高位の雌」で、あたしが号令を出すのを待っているのだろうか。


「・・・」


なんか嘘くさい。

オオカミが、そんな人間が適当に考えたっぽい行動規範に従うとは思えないし、

アマロックがいるときだって、アマロックが”命令”を出して、サンスポット達がそれに”従って”いるわけじゃない。


どれだけアマロックがオオカミとして強くったって、群のメンバーに、彼らが嫌がることはさせられない。

群を一つにまとめ、彼らを協調行動に向かわせるのはもっと原始的な絆、

人間の言葉で言い表せば、利害の一致というやつだ。

それが折り合わないとなれば、何ら迷うことなく離れていく。


人間はきっとそれを浅ましいだの、獣の下劣だのと非難がましいことを言うのだろうけれど、オオカミにしてみたら、何とでも言えという話で。

獣の世界、異界の論理では当たり前のことだ。


それだけに、そしてアマリリス自身でさえ、オオカミの身体でいるときには、

アマロックを見捨てて立ち去れという、荒野からの声にあがらうのが一苦労だというのに、

何かがサンスポットたちを引き止めているというのは、ちょっと薄気味悪くもあったが、有り難いことだった。

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