第423話 異能王の戦場#4
異能王の肩越しに、正確には彼が操る骸装の視覚を間借りして、
彼女――予め死を予約された
「彼女」の役目は、第一に異能王が旅団の利益に反する行動をとった場合には直ちに処断すること、
第二に、異能王が戦闘に敗れ、敵の手に落ちるような事態においては、やはり彼を処断してそれを阻止することだった。
敵は異能王に狙いを定めて、血肉に群がる死霊の群れのように押し寄せてくる。
異能王は配下の巨躯兵を盾にしてその突撃を妨害し、あるいは制御を奪い取った敵兵を用いて反撃を試みるが、
いずれも、自軍の損害を意にも介さない、敵の対抗策によって粉砕されてゆく。
はじめ、戦場を埋め尽くす黒い雲霞のように思えた巨兵の群れはみるみるその数を減らしていった。
一方で ――損害に見合う戦果と言えるかはさておき―― 着実に撃破数を重ね、遂に異能王が操る白の巨躯兵の最後の1体が破壊された。
その時点で戦場には、異能王を体内に収める骸装と、それを取り囲む12体の黒の巨躯兵が立っていた。
防壁の上から戦場を見下ろす守護鎮台は、静かに戦況を分析していた。
次の瞬間には、5体が制御を奪われる。
即ち、敵6:味方7。
黒の旅団の構成員としての彼女の役目は、可能であれば白の渠魁を捕虜とすること、それが不可能な場合は殺害することだった。
戦場に立つ司令官としての彼女の判断は、開戦早々に第一の優先目標は放棄し、その脅威の排除に集中していた。
戦闘の流れは決して良いものとは言えず、総力戦により一気呵成に殲滅を目指したものの、大半は個別撃破の形に持ち込まれ、目論見よりずっと多くの損耗を積み上げての現時点の形勢だった。
機動力を誇る白の渠魁を相手に、1体分の優位で勝利を収められるかと言えば危ういが、相討ちには持ち込めるかも知れない。
そしてこの先重要なのは、これ以上味方を減らさないこと。
仮にこの状況からお互い1体づつ損耗すれば、次の瞬間には戦力の形勢が逆転することになる。
彼女はここに来て戦術を変えた。
「全自爆兵に通達。
以降、各個判断による
起爆準備を継続し指示を待て。
全長手に通達。
同軍からの攻撃に応戦は不要。
全戦力を白の渠魁に収束させよ。」
そっくり同じ姿をした黒の巨兵団の同士討ち、
装甲を打ち砕かれ、腕をもぎ取られる乱戦を突破して、2体の巨躯兵が迫る。
異能王は自身での組打ちを避け、敏捷な動作で後ずさり、側方に跳躍し、掴みかかる腕をかいくぐってゆく。
戦況に集中するあまり、彼女は自分の背、異能王と自身を覆う装甲が、握った拳を緩めるようにゆっくりと開いていったことに、まるで気づいていなかった。
さらに1体が加わって自分たちを追いはじめたとき、彼女ははっきりと劣勢を悟り、
自爆の予備動作、腹腔内に蓄えた炸薬に火点を接続する動作に入った。
そのとき、背後から忍び寄った巨躯兵が骸装の背に拳を叩き入れ、瞬きの間にその体内から自爆兵を引きずり出した。
電光石火の早業ではあったが、敵の手に落ちた後も、自爆兵がその武装を用いることはついになかった。
最初の一突きで彼女の頚椎は打ち砕かれ、起爆信号を炸薬に送る経路は失われていたのである。
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