第578話 運命の与えた公平
アマリリスはムカムカしていた。
人間の間でなら、アマリリスは誰もが目を奪われる美少女で、それ故に良くも悪くも特別扱いされ、アマリリスもそれを当然のことに受け入れていた。
故郷ウィスタリアでも、よほどのひねくれ者でない限り、男の子はみな彼女に好意を寄せ、
女の子も、彼女の美しさと、さっぱりした性格に魅かれ、大半はアマリリスを愛した。
反面、嫉妬や、高慢な物言いへの反感などから、敵対心を見せる者も一定数いたが、そういう相手はアマリリスは単に無視し、相手にしなかった。
だからこれまで、彼女を取り巻く環境は、最初から自分に好意的な相手によって支えられ、アマリリスは敢えて人に好かれたいと思ったこともないし、
それどころか、――今から思えば、ままごとのような付き合いに終わった、アザレア市のボーイフレンドも含めて――特定の相手に、自分がどう思われているのかすら、気にしたことがなかった。
しかし今、アマリリスには、他の誰でもない、アマロックただ一人が必要で、アマロックは、彼女だけのものであって欲しかった。
なのに。
アマリリスは小さく舌打ちした。
こんな、愚かで可愛げのない、鈍臭く、男みたいなだみ声の自分の、唯一の武器が容姿の美しさだというのに、
まわりにいるのが、勝るとも劣らぬ美女ばかりでは、それは武器でも何でもない、アマリリスは単に裸の身に獣の皮を着た、滑稽な人間に過ぎないではないか。
せっかく天性の美質を与えておきながら、運命は何故こんなところで意地悪をするのだろう。
――それが、運命の与えた公平さだという発想は、アマリリスにはなかった。
加えて、魔族に対して、貞操や責任の感覚は期待できないし、アマリリスもそんなものでアマロックを縛りたくはない。
いつなんどき、前触れもなくアマロックに見捨てられるかも知れないという考えが、こういう状況になってみると、非常にイヤな現実味を感じられてならなかった。
アマリリスはもう一度舌打ちして、唇を噛み、彼女には聞き取ることすらできない言語で談笑している二頭の魔族を睨みつけた。
美しいばかりでなく、妖艶で、何物にも動じない、本物の魔族の女が、悠然と彼女を見る。
”人間を連れてるなんて珍しいわね、
あれは食用?繁殖用?”
”
”でも、味見くらいはしたんでしょう?
どう?良かった?”
”いやいや、君に比べればまるで・・・”
なんてことを、言ってるに違いない!!
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