第232話 嗚咽に震える氷柱

また少し眠って目覚めると、熱は引いて、ずいぶん体は楽になっていた。

けれど悲しい気持ちはなかなか癒えなかった。

思い出したように滲んでくる涙を拭いながら、ベッドの中でしきりに寝返りを打った。


耳を澄ましても家の中は静かで、階下で人が活動している気配はない。

ファーベルもヘリアンサスも眠っているのだろう。

まだ朝早い時間なのだ。



枕元の窓を見上げれば、空は淡い桔梗ききょう色、雲間に見えるまだ明るさを残す星の間を、海鳥が飛んでゆく。

軒先に垂れ下がる氷柱つららは、昨日よりもずいぶん長くなった。


全体は鋭い氷の針のような形状ながら、氷柱の先端はごく小さな丸みになっている。

その玉がわずかづつ水を蓄え、最後には先端から滴となって落ちてゆく。

1、2分に一度ぐらい、ずっと見ていないと見逃してしまう。

そして暇の余りアマリリスはついつい5回以上も、水滴の落下を見届けてしまった。

何だか少し元気が出てきた。


寝てばかりいるのも気が滅入る。

熱も下がったし、今日は起きよう。ちょっと外にも出てみようかしら。。



ちょうどその時、氷柱の先からしたたり落ちた滴が、奇妙に歪んだ軌跡を描いて落下して行くことに、アマリリスは気づいた。

そして見ると、氷柱そのものもまた嗚咽おえつに震える涙のように、全体が波打って震えていた。

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