第235話 氷原のレヴィアタン
これが・・・竜?
直前の人魚の歌からの連想がなかったら、それを竜とは呼ばなかったに違いない。
何に見えたかと言えば、第一に人間に似ていた。
灰色の雪空のもと、黒々とした海、
そこに浮かぶ白々とした氷原に大穴を空けて、身を乗り出し、両腕を突いて体を支える人の姿。
だがその体は黒と灰色の斑で、奇妙につるんと丸い頭には目も鼻もなかった。
頭部の半分ほどまで切れ込んだ口には、釘のような歯がずらりと並んでいる。
そして、距離感から正確には分からないが、氷の上に乗り出した上半身だけで、少なくとも5、6メートルの高さがある。
これが竜であれ何であれ、危険な海の
怪物の唇のない口が歪み、酷薄な笑みを浮かべたように見えた。
流氷の下へ身を屈めるようにして、怪物はゆっくりと水中に没した。
悪い夢でも見たような気分だった。
氷原に開いた大穴では、砕けた氷が乱流に舞っている。
依然として人魚の母子に動揺はなく、さっきのまま入り江の奥で浮かんでいる。
最後に水面から現れた怪物の下半身は、クジラのような尾鰭を先端に持つ、一本の長い尾だった。
だからフォルムだけ見れば、アマリリスが人魚と呼んでいるこの母子よりも、あの醜悪な化け物のほうが人魚らしい姿をしていることになる。。。
突如、入り江の入り口、アマリリスのすぐ足元の氷原が炸裂し、アマリリスは悲鳴を上げて尻餅をついた。
爆風が巻き上げた雪が渦を巻いて雪空へ昇り、氷のかけらがバラバラと降ってくる。
腰が抜けて、四つん這いで崖のヘリに戻って覗き込むと、爆発によって開いた海面に、怪物の黒い丸い頭が浮かんでいた。
もはや疑いもなく、
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