第236話 気泡衝撃波#1

怪物レヴィアタンの黒い頭が、ブゥンと低い唸りをあげて震動をはじめた。

周囲の海面が沸騰するように泡立ち、砕けた氷のかけらが宙に舞う。

厚い氷原に大穴を開けたほどの莫大なエネルギーが、その奇怪な頭部に収束され、

入り江の奥に向けて、一気に放出された。


流氷が砕け飛び、直線上に十数メートルの高さに及ぶ水柱が上がった。

入り江の一番奥にいる人魚の母子のところまで、海が氷に閉ざされて以来の大波が押し寄せた。


雷の直撃のような轟音とショックに、アマリリスは一瞬気が遠くなった。

ようやく正気にかえって、濛々もうもうと煙る水飛沫の向こうに目を凝らすと、

入り江の入り口に折り重なって、外海に対する砦となっていた流氷のせきは切り裂かれ、黒々とした水路が開けていた。



どこから湧いて出たのか、怪物レヴィアタンの両翼から、同じような黒と灰色の斑の醜悪な生物が幾匹も走り出て、進入路に殺到した。

親玉の大レヴィアタンよりはずっと小さいが、それでもシャチか大型のイルカほどはある大きさだ。


人魚たちがはじめて反応した。


左右二手に分かれ、水路の出口を挟む位置につく。

氷の切れ目から小レヴィアタンが出てくるのにあわせて、母親の人魚が動いた。

水中で深く膝を折った体勢から、引き絞った弓を放つように、魚の鰭を持つ脚を空中高く蹴り上げた。

振り抜きざま、ライフルの銃声のような、乾いた高い音が響いた。

水を切り裂く力によって発生した水圧の波動が、まさに弓から放たれた矢のように、先頭のレヴィアタンめがけて飛んでいった。


鈍い音を立てて、レヴィアタンの頭がチーズのようにひしゃげた。

そのままくるりとひっくり返り、黄色い腹を見せて動かなくなった。

何とこのか弱げな人魚に、恐ろしい怪物レヴィアタンと渡り合う戦闘能力があるのだ。


仲間の死骸を踏みのけて、後続の怪物レヴィアタンが前に出る。

再び母親の人魚が、そして今度は子供の人魚も攻撃に加わった。

小さな体格で威力を補うためだろうか、水を蹴り上げるというよりも、ほとんど体ごと宙返りして逆さまに水に落ちた。

衝撃波を食らった怪物レヴィアタンの頭が砕ける。

もう一頭は肩口から胸のあたりまで切り裂かれ、裂けた体でバタバタとのたうち回った。


それでも怪物レヴィアタンは後から後から出てくる。

次第に人魚たちは、怪物レヴィアタンに追われながら応戦する格好になってきた。


メリメリと音を立てて流氷が砕ける。

大レヴィアタンが両腕を立てて、水面の上にその巨体を支えていた。

氷の砦を乗り越え、入り江の内側の海水面に盛大に水柱を上げて着水する。

人魚たちは今はもう小レヴィアタンから逃げ回るのに精一杯で、そうでなくとも大レヴィアタンが相手では、手も足も出ない。

大レヴィアタンの頭部が震動をはじめた。

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