第237話 気泡衝撃波#2

大砲の発射のような波動が、入り江を真っ二つに切り裂いて突き抜けていった。

それに飲まれる最後の瞬間まで、アマリリスには人魚たちが、お互いを庇おうとしているように見えた。


子どもの人魚は間一髪のところで(おそらくは、母親が逃がしたのだろう)死の射線を外れ、外側に投げ出された。

一方母親の方はまともに直撃を受けて、群がっていた小レヴィアタンとともに嵐のような白い飛沫の中に消えた。

竜巻のような波濤はとうは、最後に入り江の奥の岩壁にぶつかって、竜の岬が隠れるほどの噴水となって噴き上がった。



”砲撃”に巻き込まれたレヴィアタンの無惨にバラバラになった死骸が、波動が引き起こした激しい波に浮いていた。

人魚の母親は跡形もなく消し飛んだかと思われたが、血潮に染まる波の下から無傷で姿を現した。


アマリリスからは見えなかったが、吹き飛ばされる直前、人魚は自ら脚鰭あしびれを弾いて作った波動を、大レヴィアタンの波動に対抗してぶつけていた。

もちろん、大レヴィアタンの圧倒的な力を押し返すことなど出来ないが、その軌道をわずかにねじ曲げ、かろうじて彼女が生き延びるための空間を確保していたのである。


すでに戦いは終わったという雰囲気だった。

次第に収まっていく波に揉まれて浮いている母の人魚に、

レヴィアタンもそれ以上、乱暴な攻撃を加えようとはしなかった。


レヴィアタンが地獄へ続く穴のような口を開き、人魚の上におおい被さってゆく。

人魚は逃げようとせず、黒曜石の瞳でそれを見上げている。


アマリリスの見守る前で、人魚の母親は巨大なレヴィアタンに呑まれ、姿を消した。

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