第234話 d'Entangled rhyme, but.

ダケカンバの枝が絡まり合った林を駆け抜け、やっと兜岩を間近に見る場所に出た。

ここに来るまでに、例の叩きつけるような波動は5回を数えた。


兜岩の頂上にいたはずの魔族の姿は、煙のように消えていた。

あの長身が身を隠すような場所なんてないし、ここから見る限り、兜岩の嶺を覆う雪に、誰かが登り降りしたような形跡もない。


そもそも奥地で見たあの魔族が、こんな近くに現れたこと自体、すごく奇妙で不気味な気がする。

やっぱり何かの見間違いだったんじゃ?

でも、そうするとあの奇妙な波動の説明がつかない。


「・・・」


兜岩によじ登って詳しく調べようかと思ったが、やめた。

今はそれどころじゃない。


あれが幻だったんならそれでいい。

けどたぶん現実で、だとすると、何かしら人魚たちに関係があるに違いないのだ。



いつもの場所から恐る恐る見下ろすと、、いた。

アマリリスはひとまず胸を撫で下ろした。


人魚たちに動揺した様子は見られず、いつも通り、入り江の奥で、抱き合って浮かんでいた。

そして例によって、じっと沖のほうを見ていた。


・・・彼女たちはいつも沖を見ている。

何故?


見張っているのだろうか。

それとも、、何かを待っている、、の?



””竜が来るから・私は行かない,,,””


どこからともなく唐突に降ってきた歌声に、アマリリスは動転した。

降ってきたのではなく足下、入り江の人魚から湧き上がってくるのだが。


え、ウソ。

人魚が歌ってる。。。


それは、言葉遊びのような童歌らしく、ラフレシア語の古語か、かなりキツい方言の歌詞で歌われている。

半分も分からないが、アマリリスにはこんなふうに聞こえた。


””竜が来るけど・出て来ないなら.私は行かない,出られない、

竜が出るから・来られないので.私が出たら,行かれない,,,””


さっぱり意味が分からない。


竜が、(巣穴から?)出る、、?

竜・・・

竜の岬。


遠雷に似た重い音が、氷原に轟いた。

ハッと顔をあげると、入り江の沖数百メートルのところに、流氷を突き破って現れた奇怪な姿があった。

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