第175話 森の神様、どうか・・・
無能な指導者に三下り半を叩きつけ、勇ましく飛び出してきたものの、
さらに1週間が過ぎても、
この1週間のうち、アマリリスが森にいられたのは、正味3日程度。
朝から吹雪いていて実験所から出られなかったのが3日、
森に行ったものの、途中で降り始め、急いで戻ったのが1日、
同じく、吹雪くかと思って引き返したものの、結局にわか雪ですぐに止んだ(しかもそういう日に限って、その後はよく晴れたりする)のが1日。
実際は、これでも天気に恵まれたぐらいかもしれない。
冬のベルファトラバ海が本格的に荒れはじめると、吹雪続きであっという間に1週間過ぎてしまうこともあるのだから。
冬が、
大嫌いな寒さを連れてくるだけじゃなく、オオカミを飢えさせ、あたしの邪魔までする。
無雪期なら、野宿覚悟の強行も辞さないアマリリスだが、冬はそんな無茶はできない。
それは、「危険だから」という至極妥当な理由よりもむしろ、
南国育ちのアマリリスにとって、吹雪に閉じ込められ、寒さに震える自分を想像するのが、ひどく恐ろしかったからである。
そして、アマリリスが知る限り、この1週間の間にサンスポットが食事したのは2回。
食べるところなんてほとんど残っていない、アカシカの古い骨が一度、
カチコチに凍りついた、鳥の死骸らしきものを一度。
どちらも、野良犬だって見向きもしないような代物で、臭いで分かるのか、雪を50センチも掘って探し当てていた。
そんなものでさえ、今日の収穫はゼロ。
今日これで何度目かの、深い溜め息をついた。
どうしたらいいんだろう。。。
いやいや、良くない。
ため息ばかりついていては幸せが逃げる。
から元気を奮い起こして、大股に歩き始めた。
サンスポットが立ち止まり、首を高く上げて耳をはためかせた。
アマリリスもフードを脱ぎ、耳に手のひらを添えてじっと聞き入った。
何も聞こえない。
けれど雰囲気でわかる。
アマロックの遠吠えが聞こえたときの反応だ。
予期したとおり、サンスポットはやおら身を翻し、アマリリスが聞き耳を立てていたのとは、ほぼ逆の方向に走り去っていった。
挨拶ひとつなく置いてきぼりにされて、ちょっと寂しい反面、ほっとしていた。
はじめは、本気で自分がこの窮乏からオオカミたちを救うつもりで息巻いていた。
けれど現実のところ、(はじめから分かっていたことだが)森は広大で、絶望的に何もなくて、人間の自分がしてあげられる事には限界がある、、
いや、何も出来ることはない、どころか、サンスポットを付き合わせて、足を引っ張っているのかもしれない、という卑屈な考えさえ生まれはじめていた。
サンスポットを呼び寄せたのが、アカシカを見つけたぞ、という類いの合図でありますように。
オオカミたちがおなか一杯食べられますように。
但しアマロックは除く。
森の神か何かに強く念じかけ、アマリリスは異界を後にした。
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