第174話 首領の資質

これだけ自分に不利な条件が揃っていたら、もはや勝敗は明らかに思えて、人間だったら先に心が折れてしまいそうだ。


けれどオオカミたちは微塵も動じない。

そういうことを考えるようには出来ていないのだ。

腹を空かせた犬がやるように、哀れっぽく鳴いたりもしない。

そんなことをしても、彼らに餌を与えてくれる飼い主はいないからだ。


彼らの姿にアマリリスは胸を痛め、それで一層、アマロックにきつく当たる起因となった。


アカシカの群がやってこないのも、タルバガンが冬眠するのも、アマロックにはどうしようもないことだ。

だからといって、彼がこの窮乏の責めを逃れることはできない。

アマロックはこの6頭のオオカミたちの首領なのだから。



すずかけ村から荒れ地へと追い立てられていった、重苦しい追放の旅と、その中で一筋の光明のようだった父の姿が頭にあった。

損得勘定とか好き嫌いではなくて、自分を頼りにしてくる人がいるから、何とかしてあげたい、そういう人たちを救わずにはいられない、

リーダーって、そういうもののはずだ。


だからオシヨロフの群の首領でありながら、アマロックがこの窮乏に際してまるで危機感がなく、

メンバーたちを餓えるに任せていることに、猛烈に腹がたった。

なのにアマロックときたら、


「リーダーっていうのは、アカシカとか大物の狩りをするときの商売であってね。

今はウチの縄張りにアカシカがいないんだから、開店休業だ。

独立採算の時期に連中がどうしてるのか、おれは知らんよ。」


そう言ってけろっとしている。

そのくせ自分は、自分だけは、臨海実験所に出入りしてファーベルのシチューなんか食べやがって、となじれば、


「あそこに連れてって、あいつらが歓迎されるんなら今度誘ってみるけどね、

行きたがるかどうかは分からんなぁ。」


話にならない。

こんな人だとは思わなかった。がっかりだ。


ばかやろう❗ と言い捨てて、アマリリスは(唯一彼女と行動を共にしてくれた)サンスポットと、冬の荒野で食べ物を探す旅に出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る